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葬送のカーネーション(2022年製作の映画)
4.2
 ユルマズ・ギュネイ、ヌリ・ビルゲ・ジェイラン、セミフ・カプランオールに続く4番目のトルコ監督登場となる衝撃的な映画である。前方座席で行われるキノコ料理の他愛ないやりとりとは対照的に、後部座席に座る実に50歳以上年の離れたお爺さんと少女の様子は何やら深刻で目が離せない。棺を担ぎ、国境まで向かう旅は正に静謐なアッバス・キアロスタミという印象で、すぐに目的地にたどり着くのではなく、様々な迂回や困難を伴う。2人の関係性は説明されないため、想像するしかないものの2人の関係性は恐らくお爺ちゃんと孫である。荒涼とした冬景色のトルコ南東部アナトリアは雪は降らないものの、凍てつくような乾いた寒さがフレームから軋む。年老いた難民の男ムサ(デミル・パルスジャン)はどうやら年老いた妻に、死んだら故郷に骨を埋葬して欲しいと頼まれていたようで、大事そうにすっかりおんぼろになった棺を抱えながら、遺体を国境を越えた故郷の地にまで運ぶ。ことの重要性を理解せぬ年端も行かぬ孫娘ハリメ(シャム・シェリット・ゼイダン)にはその意図すら判らず、ただただ途方に暮れる様子が印象的だ。

 寡黙なお爺ちゃんと愛想のない孫娘のロード・ムーヴィーと言えば聞こえは良いが、2人の関係性も今一つよくわからぬまま、棺は国境沿いに鈍重に向かって行く。川口のクルド人問題を思い出したが、少数民族は言葉も理解出来ない棄民同然の姿で、それでも一つの目的をもって棺と旅に出る。まだまだ遊びたい盛りの少女はまだ両親を失ったことを理解していないのだろうか?だが少女が不意に描いたスケッチ・ブックには彼らの過酷な境遇がしっかりと映し出されている。ロード・ムーヴィーとは言え、この辺りの地政学的な尺度には明るくない私が言うのも憚られるが、恐らくトルコ国境沿いから妻の故郷として目指すのはシリアかイラクだろうか。アラビア語しか話せないお爺さんとは対照的に、少女はトルコ語を操ることが出来、そこに僅かな光明を見る。キアロスタミの愛弟子のジャファール・パナヒの『熊は、いない』同様に隣国への越境は文字通り命懸けで、命を懸けたサヴァイヴになるのだがある地点から地点へ涙ぐましい努力を続けて来た2人の足取りと過酷な現実。喪の作業は皮肉にも結婚式という生の儀式に繋がるのだが、年老いた男の背中に故郷を奪われた者の悲哀が滲む。
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