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イグジステンズのnetfilmsのレビュー・感想・評価

イグジステンズ(1999年製作の映画)
4.1
 今より数年後の近未来、教会ではアンテナ社が開発したゲーム『イグジステンズ』の新作発表会が行われていた。ゲームの説明をするアップル社のビル・ゲイツのような男は一通りの説明を終えた後、満を辞して天才ゲームデザイナーのアレグラ・ゲラー(ジェニファー・ジェイソン・リー)を呼び込む。イベントの目玉となるアレグラとの同時プレイに目を輝かせるゲーマーたち。警備員のテッド・パイクル(ジュード・ロウ)は金属探知機を使って候補者1人1人のボディ・チェックを施す。やがてゲームがスタートし、ゲーマーたちは脊髄に開いたバイオポートという穴から、両生類の遺伝子操作で孵化したゲームポッドを膝の上に置き、プレイを始めた。何度も自らの肉体の内側を描いたクローネンバーグらしい肉感のガジェット。彼らの心は仮想現実の中に侵入するのだが、突然一番前に座っていた青年が古いゲームポッドから拳銃を取り出し、アレグラに向かい発砲する。「アンテナ社に死を、アレグラ・ゲラーに死を」男の撃った銃はアレグラの肩に命中し、アレグラは突然バーチャル世界から痛みを伴う現実に呼び戻される。ことの次第を見つめた警備員のテッド・パイクルはアレグラを連れ出し、混乱の雑踏の中車で逃げる。襲撃され傷ついたゲームのデータは損傷されていないか?アレグラはテッドと一緒にプレイし、ゲームの世界観を確かめるために、バイオポートを開けることの出来るガス(ウィレム・デフォー)の元へ連れて行く。

 突如見つけたヒロインの美しさにやられ、主人公が徐々に現実とバーチャルの境界線を侵犯する様子は、クローネンバーグの83年作『ヴィデオドローム』と同工異曲の様相を呈す。「ヴィデオドローム」ならぬ「ゲームドローム」と呼ぶべき今作ではVHSテープの魅惑の世界に取り憑かれ、遂にはVHSデッキを腹の中に埋め込んでしまった『ヴィデオドローム』に対し、背中の脊髄の下側に開けたバイオポートにより、ゲーム内の仮想現実に侵入しようとする。失敗したら脊髄麻痺で一生後遺症の残るバイオポートの貫通式は、『ヴィデオドローム』においてヒロインの耳の穴を貫通させた危険なフェティシズムとも共鳴し得る。ヴァギナやアナルのような伸縮性のある穴に、テッドが突っ込んだ舌先、アレグラは突然の主人公の誘惑を戸惑いながらも受け入れる。ブロンド・ヘアのジェニファー・ジェイソン・リーの退廃的な美しさは現代では真っ先にエル・ファニングを彷彿とさせる。3800万ドルをかけた危険な仮想世界、その中に登場する怪しげな中華料理店、純粋なゲーム衝動でカエルの解体が得意な男に課せられた露悪的なスペシャル・メニュー。現実主義者(リアリスト)はゲームの黒幕であるアレグラ・ゲラーに次々に襲いかかるが、その度に現実とバーチャルの狭間にカップルは逃げ込む。死の胞子を撒き散らす老いたバイオポート、ヒューゴ・カーロー(カラム・キース・レニー)やキリ・ビヌカー(イアン・ホルム)の心変わり、ラスト10分のあっと驚く展開は80年代のクローネンバーグ信者にとって心底ニヤリとさせられる。『ザ・フライ』の世界的ヒットの後、ヒット作に背を向け、90年代は難解な心象世界ばかりを描き続けたクローネンバーグの出自が明らかになる原点回帰の会心の1本である。
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