金春ハリネズミ

エドワード・ヤンの恋愛時代 4K レストア版の金春ハリネズミのレビュー・感想・評価

4.8
エドワードを、ヤンしてきました。 
監督初体験で、全く前情報を抱えずに挑みました。

とっても素敵な映画です。
1994年の作品ですが、どうでしょう。
正に今日に棲む現代人の営みを眺めているようで、とても昔の映画などとは思えなかった。

「恋愛時代」なんだからどうせ甘酸っぱいラブロマンスなんでしょ、なんて的外れな期待を、見事に裏切ってくれました。
(というか原題は「獨立(独立)時代」だそうで。相変わらず邦題というのはややこしいです。)

そこには充実の反面、心にすっかり穴の開いた都会人たちが蠢きます。自身の生の実感を、作中で謂う「フリ」としか表現できない病人たちの次世代型情報交換システムに強く共感しました。

パンフレットでは濱口竜介さんの評論が載っていて、これが流石です。
見事に本作の輪郭をなぞってみせています。

個人的には望月峯太郎の「バタアシ金魚」を初見で受けたときの衝撃というか、混乱、その先にある悦。それを重ねました。
台詞による果てしない情報量とは裏腹に、その取るに足らない内容の会話劇に、ついつい眩暈を起こしてしまう。

この混乱がまさしく現代ぽいというか、都会的で。
街ではじめて出会った人(そうでなかったとしても)とする会話は、楽しい一方でどこまでも空虚な印象をいつも覚える。
あの芯をくえてない、ひたすら滑り続けている感覚がこの映画には詰め込まれている。

ディスコミュニケーションの反復の先に掴んだ確かな「フリ」という名の「本当」が、映画的カタルシスを生み出していて気持ちいいです。

4Kっていいですね。
夜明け越しの黒シルエットはとてもかっこよかったです。

噛めば噛むほど味の出るスルメ型映画なので、また観たいんですね。