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石があるのT0Tのレビュー・感想・評価

石がある(2022年製作の映画)
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2024.9.26 61-86

99カット。この映画が、というより、この映画に出てくる人の行動原理が好きじゃない。好きじゃない理由は、ギヨーム・ブラックの物語映画が好きじゃない理由と同じ。何も無いのが、資本主義に抗するみたいな評価を受けているそうだけど、これは「何も無い」を装っているだけだと思う。

彼女はなぜか川の綺麗な田舎へとやってきて、結果的に一晩その街を放浪しながら過ごすことになる。目的の無い人がふらふらと彷徨うのをじっととらえる。冒頭はまさに、山を映す情景のなかに奥から手前へと彼女が入ってくるショットから始まる。そこから当てのない、出口もないさまよいが始まる。

とにかく彼女は出会うというより、巻き込まれる。それに対し彼女は、いつだって無視できる、逃げることもできるのだが、戸惑いつつもついて行く。そうしないとお話が始まらないのだが、別に始まらなくてもいいお話があるようにも思う。特にあの水切りをする図体のでかい男にはついて行かないほうが良かったと思う(なぜなら答えは見えているのに答えを出さないのでダラダラと巻き込まれてしまうから)
初めはこどもたちの呼びかけに巻き込まれる。サッカーの人数合わせに呼ばれゴールキーパーをする。この場面の一連のショットショットがすごい良い。団子サッカーをする子供達のなかで呆然とするしか無い彼女を中央に収めるのだが、いかにもそのカオスな空間に馴染めていない。しかし次のショットのおいて、ボールを投げるキーパーのショットからはじまるのだが、ボールの動きを追うカメラにつられるかのようにこのこどもたちのサッカーの輪に入って行く。ショットが連なるたびにこどもたちと彼女の異質感はなくなり、もはやゴールキーパーですら無くなって行く。ここが、個人的にはいちばん良かった。

次に水切りをする図体のでかい男に呼びかけられ、結局この映画のほとんどがこの男との話なのだが、出会い方からこの関係をつまらなくしているように思う。男は、自身を見つめる彼女に「どうしたんですか」と呼びかける。彼女は「何もないです、すみません」と答えるのだが、聞こえないのか、川に入って対岸の彼女の方に向かう。もちろん、彼女は、要もないのに濡れてやってくる男に申し訳なくなり、「何も無いんです」と声をあげるのだが、男は聞いておらずこちらへとやってくる。確かにこのシーンは笑える。しかしここからは、その状況における男と女の非対称な関係性がどうしても気になる。
彼女は、その申し訳無さからなのか、ハンカチを差し出し当たり障りのない話として水切りの話題をする。男は、そこから水切りの話をフックに彼女に付きまとう。もうこれは、確信犯だろう。声も聞こえていたはずであり、それでも引かないで彼女と会うのは、本当にずるいと思う。彼女は自分のために濡れた(しかも別に濡れなくても良かったのに)男に対して、申し訳程度に付き合うに決まっているだろう。この非対称性によってそもそも男と女は出会ったのであり、この関係が続くのはこの非対称性のせいである。
正直、早く女に逃げてほしかった。彼は、絶対に「何がしたいのか」言わない。それはわからない、というより彼は確信犯なのだから言わないのだ。明らかに石投げから石積みへ、流木を落とさないようにするゲームへと進んでいくうちに男は彼女の身体へと近づいて行く。そして究極にはおんぶをしようとするのだ(そこで初めて彼女はそれを拒否する)。やはりそこには性愛めいたものを感じてしまう。少なくとも、作り手はそれを考えているだろう(それを裏切るような展開は少なくとも見られない)。彼は彼女と「出会った」と書くのだが、これは明らかに出会ってないだろう、巻き込んだじゃないか!
彼女は、ズンズンと先を歩く彼(彼は、彼女の戸惑いに対して逃げ道を与えないという意味でコミュニケーションが取れない)に対して何度も帰ろうとする。しかし、彼が画面から消えるたびに、そこがまさに逃げるチャンスなのだが、カメラの中央にとどまり、また彼の方へと歩き出すのである。このカメラワークは意図が明確で映したいものはよくわかるし、それはそれでおもしろいと思う。
ただ正直、「何故?」と作り手に問い掛けたい。この男についていっても何も無いぞ、何も無かったじゃないか!別に何も無い話で良いと思うけど。でもつまらないよ。だって男は、確信犯だから。彼女に慰めてもらおうとしているだけだから、しかも彼女から誘ってもらって自分は責任をわざと取らない形で(これは言い過ぎか。ギヨーム・ブラックは明らかにそうだけど)。だったらもっと他の出会いが見たかった。自分が好きではないのは、この一点。

男が投げてしまった、彼女が見つけた丸くて可愛らしい石を彼が次の日探しているのだが、それを彼女が電車の車窓から眺めたとき、彼女はニコニコしている。でも観たいのはこれじゃない、と思った。
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