このレビューはネタバレを含みます
実際にあった高校生の自殺事件を描いた作品。
映画の前半に描かれるのは、コールセンターへ実習しにいく高校生ソヒの姿。
「高校の実習先がコールセンター?」と違和感を覚えつつも、案の定そこは客からはクレームを受け、上司からはプレッシャーを受けるブラック企業だったと。
大人の男の罵声を浴びるって、それだけで暴力だと思うんですけど、それを何の訓練も受けてない少女が対応するというだけで、胸が痛くなるものがありました。
今でこそ、「カスハラ」という言葉がありますが、コールセンターで働く人がどんな人か想像出来れば、怒りをぶつけても意味がないと分かると思うんですけどね。
その後も、上司の自殺や会社側の隠蔽工作、給料の未払いに直面したソヒは自殺を図ります。
これは未遂に終わるわけですが、これだけの事件を起こしても尚、彼女に寄り添おうとしない両親と学校の姿勢がなかなかに衝撃的。
「仕事を辞めたい」という声を無視する親だったり、ソヒを励ます振りして逃げ道をなくそうとする教師には恐ろしいものを感じました。
観客である私ですら恐怖を感じるのだから、当人が感じた絶望は相当なものがあったに違いありません。
結局、彼女は自殺してしまうわけですけど、仕事で追い込まれていく人のメンタルが本作を見るとよく分かる。
よく「嫌なら仕事を辞めればいい」と言いますが、ソヒの場合は嫌でも辞めれない事情があった事が分かりますし、上司のケースを鑑みれば、そんな事を考える余裕なんかなくて、とにかく何もかも忘れて楽になりたい…という一途な思いから、そうした行動に至るのでしょう。
どちらにせよ、そこまで追い込まれる前に、何かしらの手を打つ事が大事なのだと思わされます。
後半になると、ソヒの自殺を捜査する刑事の視点から、事件の背後にあった問題が明らかにされます。
学校は就業率欲しさにブラック企業にも実習生を送り、教育庁も予算獲得の為に就業率を利用していたと。
数字で良し悪しを判断する成果主義が会社のみならず、教育の現場にまで持ち込まれた事によって、この様な歪みが生じてしまったのかもしれません。
ネオリベ的な価値観が内面化されてしまった世界の恐ろしさと言いますか、問題が起きても誰も責任を取らず、全ては自己責任で片付けられ、弱者は誰にも守られる事なく虐げられていく。
「やってる事が学校というより人材派遣会社じゃないか」という台詞があった様に、社会全体がブラック企業化していくと、こういう未来が待ち受けているのでしょう。
これじゃ韓国の小子化も止まらないわけだ…と思ったし、日本に関しても、公立高校を潰しまくり、教育の世界に競争を持ち込もうとする某政党はマジでヤベーんだなと思いました。
大阪府民は本作を見た方が良いですよ、これを未来の大阪にしない為にもね。
ケン・ローチ作品の様なゴリゴリの社会派映画なので、正直、見ていて楽しい作品ではありませんが、それでも見なきゃいけない、我慢してでも見る価値のある作品だったなと。
実際、韓国では本作の公開後、実習生の保護を図る「次のソヒ防止法」と呼ばれる改正案が通過したそうですが、政治を動かさずとも、カスハラをしないだとか、弱っている人を追い込まないだとか、そんな事を覚えるだけでも世界は良くなると思うのです。