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⻘いカフタンの仕立て屋のいののレビュー・感想・評価

⻘いカフタンの仕立て屋(2022年製作の映画)
4.3
手の感触。この映画を観ながら思い出していた。アタシは、光沢があって滑りがなめらかな布地を片手ですりすりしながら眠りに入る子どもだったことを。そのときの手の感覚を今でもアタシが覚えていたことに自分でも驚く。上質な布地を触ることの、癒やされるような感触。ミナがハリムの肌を愛撫する感触。愛撫することと愛撫されることの愛おしさ。公衆浴場でハリムとユーセフが微かに指を触れあわせる、その感触。カフタンに一針一針 心を込めて刺繍を施す職人の手。とても贅沢な感触の映画だったと思う。そして縫い合わせることの尊さも。


青いカフタンの〝青〟は、深みのある色。人の様々な想いが何層にもわたって込められているような。だからこそ人を惹きつけるのだろう。それはターコイズブルーでもなくロイヤルブルーでもなく、ハリムがきっぱり〝これはなんとかブルーだ〟と言ったけど聞いたことなかった色の名で憶えていられなかったから、配信かなにかで見返したときにこっそり書き直したいと思う。


予告篇から受けた印象は、「難病ものでお涙ちょうだいの、だけど良い映画」といった印象だったけど、いやいやそんな単純なものじゃなかったです。複雑な想いを押し殺し、それでも押し殺せなくてあふれ出てしまう想いがあって。人は心の中に何人の人を大切に思ったっていい。言わずにいたこと、言えずにいたこと。相手が言わなくてもちゃんとわかってたこと。それでもわたしは貴方が好きだということ。こうして書いているだけでまた涙がこぼれてきてしまう。灼熱の魂ほどじゃないかもだけど、芯の強さは相も変わらずのルブナ・アザバルが演じるミナの強さに感服します。サレ・バクリが演じたハリムという人物、巧い人が演じてこそのあの深みだったのだと思う。ミナとハリムが笑い合ってる場面ほんと好き。反骨精神も含んでるのよね。二人で思い出して笑い合うのは、同志のようでもあり、ふたりの過去の積み重ねがあってこその今だし、互いが互いを思いやりわかりあってこその笑いで、どの場面も全部好き。そこに青年ユーセフが。ユーセフ、キミもなんて素敵な人なんだ。キミがいてくれて本当に良かった。ユーセフが家族のようになっていくのもうれしかったし、3人で踊る場面もステキだった。


舞台はモロッコ。イスラームといえば中東、といったイメージしかない自分を反省した。ミナが通りを歩くとき、ヒジャーブつけてなくて大丈夫だろうかとハラハラしちゃったのも、アタシのなかにイスラームはこうだという固定観念みたいなものがあったからだと思う。世界はもっと広いのだ(北アフリカのイスラームについては、世界史学び直し中だから少し理解)


この映画は戒律とかそういったものに対しても進歩的な部分を含んでいるのではないかと想像する。もしそうだとしたら、既存の概念や慣習などに対しての 監督の挑戦する姿勢も応援したくなってくる。それはミナやハリムやユーセフの姿勢とも合致する。終盤、ハリムとユーセフが、前と後ろで堂々と通りを歩く姿は、多くの人を励ますものなのだと思うしそうであってほしいし、わたしの心の中にもちゃんと刻まれたと思う
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