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Rodeo ロデオ(2022年製作の映画)
4.0
 ヒロインはある日バイクを盗まれる。半狂乱に陥ったヒロインの姿はダルデンヌ兄弟の『ロゼッタ』のように、手持ちカメラの忙しない動きで明示される。まるで自分の手足を奪われたかのような切実な怒りや鼓動が彼女の背中に向けられたある種の緊張感のある描写で示される。ヒステリックな彼女の勢いに半ば押せられるかのように、渋々彼女を助手席に乗せた男友達の巻き込まれ感は、ヒロインの女性がこの先どこに向かうとも分からない不穏さに我々観客を掻き立てる。次のシークエンスでは、もはやジュリア(ジュリー・ルドリュー)はSNSで別の伴侶を見つけたことが明かされる。バイクのバイヤーに対し、どのような口八丁で掻っ攫えるのかを彼女は感覚的に会得している。あとは一気呵成なハッタリで伴侶を1本釣りするだけだ。彼女が伴侶に跨る姿は、この世で一番満ち足りた表情にも見える。スピードの恍惚とひしゃげたような轟音。スピードと一体となった彼女の姿はロデオを乗り回す西部劇のヒーローにそっくりだが、彼女が唯一西部劇のヒーローと違うのは、彼女が本来ならヒーローに守られる側の女性であるということに尽きる。

 彼女の公道での無軌道な走りは、やがてバイカーたちの集団に絡め取られる。ヘルメットを装着せず、地面スレスレのウィリーなどかなり危険でアクロバティックな走りをするチームは「クロスビトゥーム」と呼ばれSNSで話題だそうだが、かなり極端でアクロバティックな動きをする彼らにはジュリアの姿は最初からお呼びでないのだ。ハンドルを握るのは男性で、女性は主に後ろに乗るか沿道で声援を送ると思われている彼らのコミュニティでは、女性の存在そのものが異端なのだ。男性的な力を誇示することに威勢の良い「クロスビトゥーム」の面々は、彼女の登場にダーティ・ワードで威嚇するかヤジを飛ばす中、チームの1人が勇気を持った彼女の行動に対し、ストリートの知恵を授けるのだがその夜、代父たるアブラはスピードの狂乱にあっけなく命を散らす。そのショッキングなあるレーサーの死はジュリアをこのカルト的なコミュニティの交わりの深淵へといざなう。フィジカルな応答は夢の中に侵犯する一方で、彼女が女性であるということそのものが男どものルッキズムへの冷笑に拍車を掛けるのだ。各人が家で行なっているはずの男根的な威嚇や見下しや好奇な目は全て男性社会の無意識下の偏見であり、ある主、戦場のような異常な抑圧下に置かれれば、手っ取り早く彼女は男どものターゲットにされて行く。

 その中でローラ・キヴォロンはカイスという男性を彼女を平等に見る男として登場させる。マフィアのボスの妻として心の牢獄の中に居るオフェリー(アンドレア・ブレジは今作の共同脚本を担当)とその子供とを乗せて3人でマシンを掛ける場面は人知れず女性たちに心の解放を促すような名場面に他ならない。ジェンダー・ニュートラル時代の『ヴァニシング・ポイント』のようなアウトロー・スターのクライマックスの神話的な姿はあまりにも鮮烈で印象に残る。『TITAN/チタン』のジュリア・デュクルノーや『あのこと』のオードレイ・ディヴァン、今年のカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞したジュスティーヌ・トリエ同様に、ヨーロッパにも今、ようやく女性映画監督の新しい潮流が生まれつつある。
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