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ゴジラ-1.0のシネラーのレビュー・感想・評価

ゴジラ-1.0(2023年製作の映画)
4.5
ゴジラ生誕70周年記念作であり、
生誕日を迎える11月3日に
本作を公開初日に鑑賞。
戦後という武器の乏しい中、
戦争での絶望を再び与えるゴジラに
果敢に立ち向かっていく人間の生き様が
好きなゴジラ映画だった。

終戦直後の日本へと襲来する
ゴジラに抗う人々を描く
物語となっているが、
戦争映画にゴジラを織り交ぜた
印象を受ける内容だった。
元特攻隊員で戦争のトラウマを抱える
主人公・敷島浩一だが、
戦争で自分だけが生き延びてしまった
罪悪感を抱える戦争被害者であり、
そういった人々の心情は戦後直後を
舞台にした本作ならではの心情だと思った。
それでいて苦しい中でも生きる希望を
見出だそうとする最中、
ゴジラが襲来して再び絶望を与えられる
のがとても苦しい展開でもあった。
命を軽んじて考えてしまう中、
個の命の尊さを説いていく戦争ドラマが
感じられる人間模様だった。
そして、行える事をやっていこうと
人々が立ち上がっていき、
物資が乏しいながらもゴジラへの
対抗策を練っていく展開が熱かった。

冒頭からショッキングな
ゴジラの場面から始まっていき、
海上で頭を出して船を襲い、
復興しかけていた銀座を蹂躙する
ゴジラの破壊描写はいずれも衝撃的で、
逃げまとう人々の被害が
容易に想像できてしまう描写なだけに
圧倒的なゴジラの恐怖感が感じられた。
そして、何と言ってもゴジラの熱線が
正に歩く原爆でありつつも、
そのギミックが格好良かった。
音楽に関しては、
安定の伊福部音楽も聴けて満足であり、
銀座を蹂躙する場面での
「ゴジラの猛威」は自分が大好きな
『モスラ対ゴジラ』の楽曲で嬉しく、
「ゴジラのテーマ」が本来の
ゴジラに立ち向かう人類のテーマとして
使用されるのも粋な計らいに思えた。

気になった点としては、
ゴジラの場面よりも人間ドラマ部分の
印象が強い点が挙げられる。
その上で丁寧過ぎる位に
登場人物が同じような葛藤や
心情を赤裸々に言う会話を
繰り返していく為、
それらの場面に関しては不要に思える上に一部台詞を省いて欲しかった。
加えて、色々と考察の余地がある
描写ではあったものの、結末における
人物の再登場は唐突に感じられた。

公開された年の世相や時代背景に
SF的な近未来を描いてきた
ゴジラシリーズにとっては、
異例とも言える戦後という
過去を舞台にしたゴジラ映画だったが、
人間の本質的な生存本能を
掻き立てられる見事な作品だった。
『シン・ゴジラ』のような原点回帰作
でありながらも、良くも悪くも
前者で描かなかった物を取り入れた
映画だと思った。
それでいてハリウッド版ゴジラでは
感じられない感情が湧く、
日本らしいゴジラ映画だった。

2024.3.11 追記
第96回アカデミー賞にて
視覚効果賞受賞という快挙を成し遂げ、
リアルタイムで授賞式も視聴していて
本作の名前が呼ばれた時には
涙が溢れてしまった。
子どもの頃からゴジラを愛していて
良かったと心から喜び、
そのゴジラの歴史に感謝する一時だった。
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