宇毘友鵶

ゴジラ-1.0の宇毘友鵶のネタバレレビュー・内容・結末

ゴジラ-1.0(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

普通のところが無くて、良いか悪いかしかないゴジラ。


*悪い点


・日本映画お決まりの構図と撮り方とキャラクター造形。これが一番最悪だった。例えば二人がサシで対話するとき、なぜ揃いも揃ってあのリズム感なのか。なぜ片方が長口舌をするときは、必ずもう片方には俯いて黙ってケツまで聞かせるのか。なぜ片方が極端な意見に走ったらもう片方は激情して諭すのか。その激情しながら諭すときに、なぜ諭す側は必ず諭される側の肩を掴むのか。あまりに記号的すぎてなんかマニュアルでもあんのかと思う。

・時代にあまりにそぐわない人物造形。登場人物の殆どが昭和感ではなく令和感が強い。繊細というよりはなよなよしい男、強かというよりは生意気な女、意地悪(最初だけ)おばさんの嫌味の言い慣れてなさ。

・戦後間も無い設定なのに、戦争が、軍隊が、観念的にすぎる。たとえば3.11が起きて2年後ぐらいまではそのことについて語るとき、誰の顔からも悪夢の余韻は過ぎ去っていなくて、今作のゴジラの登場人物の戦争への態度のように簡単な良し悪しで語れるほど達者に言葉は出なかった。そこから考えるならば戦争という大破壊が起こった直後はもっと混沌としていて、例えば特攻し損ねた人物への自決圧力はあんなんごときじゃ無いと思う。登場人物皆「生きろ」ばかりだが、んなわけ無い。あと旧軍の悪いところを語るシーンがあるが、旧軍の技術屋が大勢いる中でそれ語るんなら絶対もっと配慮が要る、敬礼等のきびしさが足りないなど、細かくあげればキリが無い。

・時々出る「ダメージ」「メッセージ」などの外来語。そりゃ旧日本海軍所属だし当時としては外来語に比較的慣れてる人らだろうが、あの文脈では使わないと思う。当時の文献や発言録を見ればわかる。あまりに外来語が舌に馴染みすぎている。つまり、自然に使い過ぎている。これは正直、セリフを考える際に気を抜いたとしか思えない。

・セリフ全般。「小僧!」言い過ぎ。クッサい台詞回し。そのせいで言葉の端々に観客を意識してる感じが出ちゃってる。

・計画の杜撰さ。深海魚が海上まで上がってる描写があって何故あの計画が最初に上がるのか謎。

・チラつくユアストーリーのトラウマ。作劇的には無理にぶっ込んだ感は全然無いんだけど、監督が監督なのでどうしてもわろてしまう。これを欠点とするのは理不尽だと俺自身思うが、まあ仕方ないね。

・ご都合主義すぎるいくつかの展開。キーパーソン二人が生き残るのはおかしい。最後もちょっとあり得ない。あれだけの爆風を受けてあんな綺麗な筈はない。生きてたとしてももっと満身創痍なはず。

・「綺麗」すぎる美術や大道具。全体的に汚し方があまりに作為的でちょっとキツい。日本映画全般に言えるが、服を汚す癖にヨレヨレにしないのはなんでなん?あんなパリっとした綺麗すぎる裁縫のままだと、汚されてても全然古く汚く見えない。もっと質の悪い作りにしないとそれっぽくない。これについては庵野氏の造り込み具合とどうしても比較してしまう。シン・ゴジラの劇中に建機の操縦手の足のアップが映るカットがあるのだが、きちんとゴム靴がひび割れていて、時間的な広がりというか、その人物への仕事への向き合い方、ひいては一個人の人生をあの一場面だけで見事に表現していたように思う。今作にはそれが無い。

・最初の零戦の脚のアップはまずかったと思う。今作のVFXは全体的に良かった方なんだけど、地面との接地の際の振動なんかが殆ど伝わってこなかった。土煙のパーティクルで誤魔化していたが、焼け石に水の感が強い。

・最後は蛇足。お約束ではあるけど、こうもいろんな映画で何度も似たような観せ方をされてると、もはや続編を出し易くするような作劇作りが鼻に付いてくる。エンドロール後に芹沢博士を出して完全に終わらせる、とかの意外性があっても良かったんじゃねえかな。ただ、足音が近付いてくる表現は良かった。あるいはあれは戦争のメタファーなのかも知れない。


*良い点


・圧倒的絶望感。これに尽きる。映画開始すぐから最後までずっと緊張が解けない。こんな怖いゴジラ初めてかも知れない……。MGKゴジラとシン・ゴジラも初見はかなり怖かったけど、今作はもうちょっと次元が違う怖さ。馬鹿でかい存在が個人をぶちのめしにかかる、そんな情景の無力感が凄過ぎた。個人的には特に高雄のシーンはキツかった。あの段階での重巡洋艦は日本最強の攻撃力。それを乗組員の個々人の奮闘を短いながらもしっかり描いた上で消し炭にするから本当に嫌らしい(褒め言葉)。

・圧倒的放射熱線。シン・ゴジラの描写で滅茶苦茶感動したが、それを上回ったかもしれない……。爆風の描写があまりに丁寧。核実験の動画を観た事がある人なら誰でもあのおぞましいとしか言いようがない爆風の動きに戦慄する筈。ビームも見えるのは一瞬で、破壊の激しさが尋常じゃない。

・圧倒的殺意。人間自体を憎んでる感じ。観る側としては人間に追われている蚊とかの気分に近いものを感じた。遠景とはいえ群衆を普通に踏み潰すし、殴るわ蹴るわ叩きつけるわ、人によっては結構キッツイ場面が続くと思う。ハリウッドゴジラにムートーが小銃をぶっ放すアメリカ兵を薙ぎ払う場面があったが、あんな感じのシーン多め。

・圧倒的音楽。おなじみのテーマもそうだが、緊張感を煽るパートでの無限音階の使い方が上手い。低音の地の底から鳴り響くような音を駆使した壮大なスケール感。もちろん今作のオリジナリティを尊重するが、その上で敢えて言うならばハンス・ジマー味を少しだけ感じた。

・圧倒的浪漫。人間ドラマのパートは前述の通り俺の中ではボロクソなんだけど、打って変わって戦闘シーン、ゴジラ襲撃シーンの観せ方と対する武器のチョイスは素晴らしい。吹っ飛んでくる船の断片に言葉を失う感じとか、小船の追いかけっことか。そういうところは大変良かった。人間が頑張って作ったものがあれだけ簡単に壊されると、それだけでもう力の差を感じてしまうよね。



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 総評すると、キッツイ欠点を全部帳消しにして余りある怪獣映画として最高の特質が揃ったゴジラだった。正直あの緊張感は鑑賞直後は二度目はいいやってなるレベルだが、それがまた良い。滅茶苦茶面白いし、しばらく頭から離れないと思う。
 一応ちょびっとだけメッセージ性も有ったし、何度かの鑑賞に耐える映画なのは間違い無い。
 あとやっぱ怪獣映画はスクリーンに限る。IMAXなら更に絶望感やばそう。
宇毘友鵶

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