悶

ゴジラ-1.0の悶のレビュー・感想・評価

ゴジラ-1.0(2023年製作の映画)
5.0
ゴジラ映画のファンとしては期待の一作。
公開されてすぐに観たい気持ちはあったけど。
あまり、混雑していない日にちと時間を選んで、ゆったりと鑑賞してきました。

【東宝のゴジラ戦略(推測)】
作品の感想は、後半に記載するとして、この新作が商業映画として持つ意味について考えてみました。
2022年11月、翌年11月3日に、東宝の制作した新作ゴジラを公開すると発表がされました。
しかし、その内容は、タイトルを始め完全極秘で、なかなか予告編も公開されず。
そんな中、2023年6月半ばから、X(旧Twitter)のゴジラ公式アカウントに、直近の29作目「シン・ゴジラ」から毎日1作ずつ遡りながら、作品を紹介するというイベントが開始。
画面の右にポスターを貼る空欄があるのですが、第1作「ゴジラ」が貼られたとしても、もう1作分の枠が残っている。
これは、第1作紹介の翌日、新作のポスターが貼られ、予告編も公開か、と。
その期待の7月11日午後8時頃に、期待の映像が流されました。
29、28,27とカウントダウンが始まり、画面は、「0」に。
ところが、カウントダウンは終わらず、-1.0、-2.0…と続いていく。
そして、Gの文字が現われ、「明日AM4時解禁」で終了。

朝4時に起きている日本人なんていないよ。お預けか。とのコメントが続々と。
翌日、「ゴジラ-1.0」のタイトルとともに、予告編映像は公開されたのでした。

このAM4時という時間設定から、私は、東宝の本作品の戦略が見えてきました。
北米でのヒットを狙っている、という推測。
ゴジラ公式アカウントは、英語版(GODZILLA OFFICIAL)があり、日本の公式アカウントと同時刻に予告編映像が公開されています。
日本と、米国ニューヨーク州の時差は、14時間。
つまり、日本の朝4時は、向こうでは、昼過ぎの2時頃で、もうすぐ夕方。
予告映像を公開して間もなく、北米の学生は授業が終わり、会社員は仕事が終わり、「やれやれ一日も終わったか」となり、スマホでXを開いてみると、ゴジラ公式をお気に入りにしている人は、トップに「ゴジラ-1.0」の予告映像が表示されるという訳。
これが、日本の夜8時だと、向こうは朝6時で、登校や出勤の時間帯、のんびり映画の予告編を観るような状況ではないですね。
そして、帰宅途中にXを開いても、予告編は、タイムライン形式なので、既に下に沈んだあと。
宣伝は、パッと見で、目に入ることが必要です。

その後、海外版の予告編も公開されましたが、視聴回数は、72万回を越え、英文のコメントが続々と寄せられています。
そして、11月3日公開と同時に、日本で大ヒットとなった本作品は、北米では、日本映画としては、近年では最大の1500スクリーンの上映が12月から劇場公開と決定しています。

予告編の内容は、日本版と海外版で多少違うのですが、大きな違いはテロップです。
日本版では、
「戦後、すべてを失った日本。
その無(ゼロ)が、負(マイナス)になる。
生きて、抗え。
(Gのロゴの後に)-1.0」

海外版では、
「THIS DECEMBER(今年の12月)
A NEW REIGN OF TERROR(新しい恐怖の支配が)
BEGINS(始まる)
(Gのロゴの後に)GODZILLA MINUS ONE」

つまり、日本人にとっては、敗戦後の焼け野原に追い打ちをかけるようにゴジラが襲ってくる、というのはインパクトがあるけれど、北米の人々にとっては、別のアプローチの方が効果的と東宝が判断したのだと思います。
ハリウッド版ゴジラの守護神的な怪獣ではない、恐怖を与えて襲ってくるモンスターのイメージで宣伝した方が、効果がある、と。

【北米ヒットに拘るワケ】
ハリウッド版ゴジラは、2014年に大ヒット。続編も作られ、「ゴジラVSコング」(2021年)も大ヒットして、ゴジラの続投が決まり、「ゴジラVSコング」の続編公開が、来年2024年に決定しています。
「シン・ゴジラ」はハリウッド版ゴジラの直後、2016年公開でしたが、これが北米ではあまりヒットしなかったのです。
東宝は、2024年公開予定の「ゴジラVSコング」の続編から、著作権料収入を見込んでいるわけですが、今回の「ゴジラ-1.0」の北米での興行収入が「ゴジラVSコング」続編の興行収入に直結することは、明らかです。
そのためにも、北米での大ヒットはなんとしてでも成し遂げたいのが、東宝の本音でしょう。

【やっと、感想を述べます】
この北米戦略は、じつは、本作品が、これまでのゴジラ映画の中でも、最高の出来栄えという高い評価を生み出すきっかけになっていると思います。
ゴジラを中心としたCGによる映像表現の巧さもさることながら、じっくりと「人間ドラマ」を描くことに成功しているからです。
主人公はあくまでゴジラであるから、ゴジラのアクションが重要な要素であるのは確か。
でも、北米で、多くの観客を獲得するためには、「人間ドラマ」は不可欠です。
特に、登場人物の日常生活上での、家族や関わりのある人物への「思いやりや優しさ」が観客に伝わらないと。
ハリウッド版ゴジラシリーズの人間パートでは、その辺りの作り込みが巧いと常々感じていたのですが、本作品は、そのレベルに十分到達しつつ、「戦争」を通しての人間の心理的葛藤まで描いていて、ゴジラ映画は初めてという方でも、しっかり感動できる作品となっています。
文句なしの★5つです。
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