悶

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎の悶のレビュー・感想・評価

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎(2023年製作の映画)
4.5
(本レビューでは、作品内に登場する「妖怪」の名称を明かしています。名称だけでは、ネタバレにはならないと思いますが、先入観を一切持ちたくないという方は、鑑賞後に本レビューをお読みください)

【鑑賞のきっかけ】
劇場公開されて、興行収入ランキング上位に入っているのを見て、初めて存在に気づいた作品。
題名のとおり、鬼太郎の誕生にまつわるエピソードの映画化ということで、大変に興味があり、劇場鑑賞してきました。

【率直な感想】
<よくぞ劇場用映画にしてくれた!>
私事で恐縮ですが。
私が子どもだった頃は、1968年にテレビ放映が始まった「ゲゲゲの鬼太郎」の第1シリーズが繰返し再放送されていたとともに、1972年からは、第2シリーズも始まり、夢中でアニメを観ていた記憶があります。
でも、その頃は、「目玉おやじ」がなぜ、目玉だけなのかは考えもしなかったし、鬼太郎もテレビシリーズでは、最初から悪い妖怪を退治するヒーローであり、それに疑問も感じませんでした。
やがて大人になり、じつは、「ゲゲゲの鬼太郎」の前に、「墓場鬼太郎」という貸本で読まれていた漫画本があり、そこには、鬼太郎の誕生と、目玉おやじがなぜ目玉だけなのかが記されているということが伝わってきました。
その後、「墓場鬼太郎」は復刻版が文庫でも出版されるようになり、読んでみると…。
とにかく、「グロテスク」です。
これでは、とても子ども向けアニメでは放送できないと思いました。
2008年には、この作品に忠実なアニメが深夜枠で放送されましたが、原作よりも「グロテスク」な部分は薄まっていたように思います。
そんな作品ですから、表題のとおり<よくぞ劇場用映画にしてくれた!>なのです。
でも、もちろん、「グロテスク」な部分は大いに削られています。
子どもでも鑑賞できるように工夫されている(ただし、PG12は付いていますが)。
それでいながら、原作の重要な要素はきちんと盛り込まれていて、十分面白い作品に仕上がっているので、その点を私は評価したいです。

<妖怪「狂骨」>
本作品で、原作者を投影しているような男性「水木」と、「鬼太郎の父親」が対峙する妖怪は、「狂骨」。
この妖怪、一般的にはあまり馴染みがないかもしれませんが、私にとってはよく知っている妖怪でした。
京極夏彦という直木賞作家がいます。
彼は、妖怪をモチーフにした推理小説を発表していて、人気の百鬼夜行シリーズに、「狂骨の夢」という作品があるのです。
私は、劇場鑑賞を終えて、帰宅後すぐに、本棚に置いてあるノベルズ版「狂骨の夢」(1995年発表当時のもの)を取り出してみました。
すると。
裏表紙に、「狂骨の夢」を絶賛する文章が掲げられていて、「『狂骨の夢』も思ったとおりオモシロクてたまらないものだ。全日本妖怪ファン必読の書である」と。
その執筆者が、「水木しげる」だったのです。忘れていたな~。
水木しげる生誕100年を記念した本作品に「狂骨」が取り上げられたことは偶然ではない、と感じています。

【全体評価】
本作品は、予備知識なしに楽しめるものなので、私のように、「墓場鬼太郎」を読んでいる必要はありません。
でも、「墓場鬼太郎」を読んで、本作品との違いや共通点を比較してみると、本作品に凝らされた数々の工夫に気づくことができるのではないでしょうか。
原作の持ち味を十分に活かした良作として評価したいと思います。
悶