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ゴジラ-1.0のはたのレビュー・感想・評価

ゴジラ-1.0(2023年製作の映画)
4.2
ゴジラが昭和の日本を破壊するというこれまでにない設定と、戦争のトラウマを乗り越えようとする主人公の王道ドラマが見事にマッチして、新鮮味あふれる物語が堪能できる。今作はGMKやエメリッヒ版ゴジラ、ダンケルクなどの影響を感じさせられるという意見が多く寄せられているらしいが、個人的にはノーラン作品のような味わい深さのある映画だと感じた。同じ音を反復するBGMをバックにアクションシーンを挿入する演出などが特にそうだった。過去に囚われる主人公というのも実に「インセプション」「メメント」ぽい。

こうした洋画らしい手触りを感じさせる雰囲気にしつつも、明らかに説明的なセリフや大げさな演技はかなり見受けられた。佐々木蔵之介がざっくらばんとしたキャラを演じるといつも同じように見えるのは気のせいか。

なにより、物議を醸しているであろう復員兵の描写は誤解を招きやすい。この映画は頼りにならない政府や海外諸国の代わりに一度生き延びた復員兵たちが再び戦いを挑まざるを得なくなるのが肝だ。「死ね」と言われて生き延びた人たちにとって、この戦いが幸か不幸かは実にあいまいなところなのだが、山崎監督はそこに絶望ではなくヒロイズムを見出すかのような描写をしている。もちろん、戦いに対する主人公敷島の葛藤は確かに描かれているのだが、何か物足りない。そう考えてみると、似たシチュエーションであったのが「進撃の巨人」の序盤であるトロスト区奪還戦だ。ここでも一度戦意をそがれた兵士たちが市民を守るために再び戦う覚悟を固める場面があるのだが、そこには爽快感の代わりに悲壮感が漂っていた。その悲壮感の原因は兵士たちが嘔吐したり、脱走を企てるなどの生々しい描写があったからだが、「ゴジラ-1.0」では、わりと全員の覚悟がしっかり固まっている。

山崎貴監督は特攻や太平洋戦争時の日本のふるまいを美化しようとは思っていないだろう。だが、その悲惨さよりも人間賛歌的な描写を優先することで、ねじれた気分にさせられるのだろう。だが、もしそれがラストの一連の場面のための伏線であるのなら彼は結構なサディストだ。
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