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アイアンクローのはたのレビュー・感想・評価

アイアンクロー(2023年製作の映画)
4.2
父親の無言の圧力に押しつぶされるような気分にさせられた。
映画を観ていて、最も雰囲気が似てるなと感じたのは、アーサーミラーの戯曲「セールスマンの死」だった。この劇の主人公ウィリーローマンは、セールスマンとしての過去の栄光に縋っており、その知見を息子たちに押し付けている。息子たちは父親の考えを盲信することで、自主的に人生を切り開く能力を失ってしまう。

この映画の父親、フリッツも無言の圧力で息子たちにプロレスを強要していく。母親は父親の教育に干渉しない(というか子供に興味を持っていない?)態度を貫くため、息子たちは父親のスパルタ教育に身と夢を捧げ、無理やりプロレスラーとしての人生を歩んでいくのだ。

この映画の魅力を最大限に高めているのは、主人公ケビンに扮するザックエフロンの好演だ。ケビンは長男が亡くなっていることから兄弟のリーダーを担っている。が、プロレスラーにしては口下手で穏やかな性格だったからか、マイクパフォーマンスが下手で重要な試合にも出させてもらえない。ディズニーのティーン向け映画であんなにキラキラしていた彼が、諦め顔でベンチにひとり佇む姿は衝撃的だ。彼が映画のラストで見せる演技は、「万引き家族」の安藤サクラを思い起こさせるほどで、このシーンだけでも観にいく価値があると言えるだろう。
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