平田一

ゴジラ-1.0の平田一のレビュー・感想・評価

ゴジラ-1.0(2023年製作の映画)
5.0
“戦後、日本。
無(ゼロ)から負(マイナス)へ。”

1954年から現在まで世界中で大反響を呼んでいる特撮映画シリーズ「ゴジラ」。その国産シリーズでは『シン・ゴジラ』以来となる7年ぶりの最新実写ゴジラ映画たる本作は、戦後日本を背景に戦時から生き延びた特攻隊員とその家族、市井の人々の壮絶なゴジラ戦が描かれる。ゴジラ映画のみならず、明確な反戦映画でもある本作を手掛けたのは『ジュブナイル』『ALWAYS』の山崎貴監督。主人公たる敷島浩一役には神木隆之介。


第二次世界大戦末期の1945年。大戸島の守備隊基地に敷島浩一少尉が操縦する零戦がやって来る。機体が故障してこの島に不時着したという彼に、ベテランの整備兵・橘宗作は敷島が何か隠していることを見抜いていた。

その日の夜、全長15mほどの恐竜のような生物が出現し、敷島と橘以外の人命を奪っていった。

同年、冬。焼け野原の東京に戻った敷島は赤ん坊の明子を抱える大石典子と出会い…


開口一番に言います。

「山崎監督、ごめんなさい!」

ホントに舐めてかかったことを心から謝罪します。

これまでに監督した『BALLAD 名もなき恋のうた』『SPACE BATTLESHIP ヤマト』が本当に好きじゃなく、特に後者に関しては「ふざけるな💢」の一言で、ゴジラの新作を撮ると聞いたときは冷めておりました(熱烈なゴジラファンって訳ではないんですけどね)。

そしたら…

開幕から映画にのめり込んでいて、しかもハッキリと反戦が色濃く出ていてビックリでした。

まず目を引いちゃったのは冒頭の大戸島。そこでのルック、カメラワーク、役者陣のお芝居が『戦場のメリークリスマス』の冒頭に匹敵です。戦場から離れた基地で、戦いもない場所で、戦争が色濃く迫るやり取りが鮮烈で、そこでとある決断をした敷島への冷たい目。意外と最小限だった台詞の力も相まって、あっという間に劇中へ入ることが出来ました。加えて敷島と橘がゴジラに初めて遭遇し、罪悪感と行き場のない怒りに打ちのめされていくシーンは非常に気休めゼロ。結構ズシンと来ましたね。またここでの橘役の青木崇高さんの芝居が人間の汚い面やそうすることしか出来なかった弱さや怒りを体現してて、見てて痛ましかったです。

物語が本格的に動く東京パートでは市井の人々の生活にフォーカスが当たってて、これが結構効果的になっていたのが良かったです。ここらは『ALWAYS』などの山崎監督に抱くイメージのまんまです。けど同時にPTSD、責められる帰還兵と、スタローンの『ランボー』シリーズ一作目級でした。責められて、自己嫌悪で何も言えない敷島役の神木さんのお芝居はこっちもツラくなるほどで、浜辺美波さんとのパートでは本当に救われます。如何に敷島という人間が典子さんや明子ちゃんにどれだけ心が救われて、自己嫌悪や戦争に心が苛まれてくのか…よくあそこまで丁寧に描いたなぁって思ったし、ルックや香りが良い意味で、“今っぽく”なかったです!

勿論ゴジラが大暴れをするパートも最高です! というより驚くほどに差別化されていましたね。『シン・ゴジラ』以降という部の悪い状況で(監督もインタビューで「貧乏くじ」って言ってたしw)、とにかくゴジラを徹底的に「恐怖の総和」として描く。その試みが完全に成功としか思えない。そんぐらいにこのゴジラは圧倒的に怖いです…海面から背びれが飛び出し、どんどん迫っていくとこなんか『ジョーズ』よりも恐ろしかったし、スゴい臨場感でした。マジでこれを御用達の池袋のIMAXで見てたらどんだけ恐ろしさが倍増しているんだ!?ってぐらいに、通常スクリーンでも本当に怖かった…よくここまで怖いゴジラを監督作りましたね…

役者面では神木さん、浜辺さんを筆頭に「新生丸」の面々が非常に素晴らしかったです! 特に乗組員三人がキャラが立っている上に、全員ピタリとハマっているのも含めて素晴らしかったです! しかも佐々木蔵之介さんのある冷笑台詞とか批判を込めた台詞を聞いてメチャクチャビックリしましたね。ゴジラというフォーマットでここまで踏み込む台詞を言えて、しかもそれが映画の品位をより一層上げるという、とにかく嬉しいビックリぶりに溢れた配慮が良かったです!

加えて神木さんが演じる敷島の設定に劇場アニメ三部作の『GODZILLA』を思い出しました。その劇場アニメーションで主役を託されたハルオは言うならば「(ゴジラへの)人類の憎しみ」を象徴し、零戦特攻・忌むべき戦争を象徴する敷島と非常に似ているって思い、色んな気持ちが湧きました。だからそれぞれが辿り着くラストシーンは美しく、同時に異なる感触なのが本当に良かったです。

いや、とにかく嬉しい裏切りだらけのゴジラ映画です! 上手く映画を見た感想を書けているかは分からないけど、確かにこれは国内の大ヒットは勿論ですが、世界中を席巻しているニュースも非常に納得です! なかなか疑問を投げかけるのが難しい日本において、ここまで明確に投げかけてる映画はホントにアッパレですし、アメリカで大絶賛されているのも分かるかも。

これはまた、次のゴジラのハードル一気に上がったぞw 国産ゴジラを次に託される監督は大変だ!!( ; ロ)゚ ゚
平田一

平田一