スコセッシフォールド全開

ソフト/クワイエットのスコセッシフォールド全開のレビュー・感想・評価

ソフト/クワイエット(2022年製作の映画)
3.4
名前を書くことすらできないアフリカ系アメリカ人が一流大学に行けてしまう例の納得感と、遅れて入社したコロンビア人に管理職を奪われた例の見当違い感の大量の蓄積が、差別の正当化と憎悪化を招いているのだと思った。集会で多民族主義への不満をぶち撒けるのだが、その多くが自身の問題のすり替えなのだ。差別の理不尽さを加害者当人の口から教えて貰えているような、資料映像感が凄い。簡単に暴言を吐けるところとか、他人と比較しまくるところとか、楽しみがあの醜悪な悪口合戦とか、「偏見をやめよう」ではなく「ポジティブになろう」の方がスローガンとして正しいのでは。

集会で吐露できない人が一番暴力的みたいな、おとなしい訳じゃなくて単にストレス発散法がヤバかった流れは良かった。保身と倫理の葛藤による止めどころの不在で、しかも複数人での犯行なので全会一致ができず悪ノリが大犯罪にまで発展してしまう。ここで誰かが強引に中止未遂をしていれば、なんてシーンは幾つもあったけど全部スルーされてしまうのが彼らの弱さを象徴していて良い。

全編ワンカットの恩恵とそうでないところはあった。証拠隠滅シークエンスの意図は理解できるのだけど、何も起こらないと分かっているのでただ長いだけと思ってしまった。