スコセッシフォールド全開

オッペンハイマーのスコセッシフォールド全開のレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.9
構成演出の理解と時系列の整理で脳のキャパオーバー。聴聞会と公聴会の会話、半分も拾えたか危うい。色有りと白黒は主観の切り替えなのか、或いは冷戦の比喩表現なのか、単に見易くするためか。大量に押し寄せる情報にやられた。オッペンハイマーの半生をベースにして色んなテーマが入り組んでいるけど、普遍的な科学/発明の功罪についての話が軸になっていると個人的には思った。進化と退化の選択肢を増やしていく人類史について。

反核思想に染まるオッペンハイマーが邪魔なのでスパイ容疑をかけちゃう、が後半の話だと勝手に思っていたけどそうではなく、ストローズの個人的な恨みだった。ややこしい。結局英雄も末端の人間で政府の駒で道徳とか通用しなくて、構造が問題なんだ!でトルーマンや大佐の露骨なあしらいの布石もあった訳で、スッとなりそうだけどなぁ。数奇な人生なので仕方がない。
主観に拘った作品なので日本描写の有無についての議論自体が無駄。8か月越しにようやく決着が着いたけど、ちょいちょいルール違反しているのが気になる。イマジネーション描写が良いのなら、被爆描写もアリなのでは?と思った。

生涯のベストシークエンスについて。トリニティ実験再現の本領は、CGを使わずあの爆発をやってみせたことではなく、その約3分前から始まるカウントダウンに結集している。宙を舞う程揺れた最大出力スピーカーにも勿論驚いたが、新たなエネルギー資源の確立/現実味が帯びる世界の消滅、国家の動向から経済文化、人類一人ひとりの生活様式まで影響を与える歴史的事件を前に、ブルブル震えたり「緊張してきた」の吐露は、音楽の煽りや俳優の名演技も相まって一切嘘をついていなかった。ちゃんと時代の変遷の映像化だった。その前に2年と20億ドルと5千人を投資した科学者達の意地。ヤバい体験と出会うために映画館に足を運んでいるので率直に感動した。
原爆表現。近くで火災が発生しているだけにしか見えないけど、音がウン十秒遅れて爆音で到達する、変な体験だった。CGで補うのも違うし。

実践の成功と戦争勝利宣言でのオーディエンスと、原爆投下の被害状況を写真で目撃した者達とのリアクションの対比。無知の狂気性をクラップとストンプで表現するのかなりしっくりきた。前者が狂ってるよ、と大勢が解釈できる作りになっていて安堵。

聴聞会SEX、量子的なやつ(アナログな方法で撮影という情報でもうお腹いっぱい)、ホイテ・ヴァン・ホイテマの酔わないカメラ、DUNEで物足りなかったIMAX映えな絵、オッピーが一番楽しそうだった教鞭の時間、ロバート・ダウニー・Jrの表情管理(アカデミー賞でのアレを彷彿とされる)。劇伴の中毒性。ルドウィグ・ゴランソンが一番の功労者。


2回目:丸の内ピカデリー Dolby Cinema

IMAX正規画角の迫力の虜になってしまった自分には物足りない。
シネスコでも人生ベストシークエンスだったのを確認。
劇伴、トリニティ実験での爆音はDolbyに軍配。