ルイまる子

怪物のルイまる子のレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
4.8
よかった〜!あらゆる要素がつまった作品です!ミステリーづくりで、内容は現代の闇を浮き彫りにした現実的な部分と、詩的で美しい部分と両面があり、その詩的なシーンを支える音楽も良かったよ〜!教授の遺作になるのかな、あのピアノの旋律がたまらないし、彼らの心のヒダを奏でる音楽に涙が溢れた。何を書いてもネタバレになるので、以下ネタバレになります。

【この後ネタバレあり】色んな角度から見れてミステリーとしても面白い。パート1では愛情深い母親だが、パート2、別の視点で、やは〜り、母親はモンスターとして見られている、というか本物のモンスターだ。息子が悩んでるからって、ベランダの外から飛び降りたんじゃないかと気にするシーン。「あ〜いやだあ〜やめて」と言いながらベランダに近づくところ、嫌いだな。常に自分の息子が自殺するんじゃないかと疑っている。しかしその根本的な悩みに対しては疎く、ターゲットは全て目に見えるもの、担任の先生だと決めつけ、思考停止している。

小学校の担任の先生(瑛太)は全く悪い人ではなく完全な誤解だった。単に先生が醸し出す雰囲気にスキがあり過ぎるのと、正直で無防備だから、悪者に仕立て上げられやすいのだ。自分も近い経験があり、非常に共感した。高畑充希演じる担任の彼女の冷淡なことよ…荷物まとめて即退散する…。あるあるだ。現代ではちょっと疑いかけられ、一旦悪のレッテルを貼られた「正直者」とは絶対関わるべきじゃないらしい。しかし、実際瑛太演じる担任の先生以外の大人は全員クソだったね。担任の先生、ほりせんは、自殺しかけたけど、生きることを選んで良かった。

微かな日々の積み重ねだけど、言葉は暴力だ。二人の子供は「男らしく」とか「お母さんの望みは湊が結婚してくれることだけ」とか、周りの大人達から、いちいち刃物でグサグサ刺される。

一緒に視聴した夫が、整合性の取れない部分が不満だと言う。例えば、最後にお母さんと担任の先生が台風の中行方不明の二人を捜しに行くが、翌日晴れた草むらを走る二人の姿がラストだ。それは見つからなかったという意味に取れる。それが納得いかないらしいが、それでいいのだ。「台風」とはこれから起こる厳しい現実に二人が突っ込んで行く覚悟を表す隠喩的表現で、二人を捜しに行った母と先生は、今後も理解し愛し続けてくれる唯一の大人であり、「捜しに行った」時点でそれを表現している(しかも敵対関係だった二人が、協力して捜しに行く姿は最低限二人の子供の未来が真っ暗でないことを証明している)。

少年二人の姿は詩的で美しく坂本龍一の音楽がとてもマッチしていた。

1つ根本的な話だが、テーマが古いかなと思った。2023年の、しかも小学校だ。みんなLGBTqなんて普通で、むしろ異性愛よりかっこいいと感じる子供も多いんじゃないかな。少なくとも自分や自分の知り合いにそれを差別的に扱う人はもう居ないのだが。

確かに女子は助けてくれてたが、マッチョな一部の男子にとって星川くんは「人間じゃない」怪物?なんだな。これはどんなコミュニティでも絶対異質な人を受け入れない層がいるから時代が進んでも起こりうる。しかし本当の怪物は誰なんだ?というのが本作の単純なテーマで、誰にでも分かるように構成されている。最後に田中裕子の校長先生の演技!!!すんばらしいいいいい!高齢者ドライバーの贖罪まで入れ込んでいる!何もかもごった煮だが、単純化していてわかりやすく素晴らしい作品!

*他の人のレビューを読んで
あ〜最後のシーンは生きてない、天国で二人は草原を走っているという解釈もあるのか、、、なるほど。それもありますね。
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