瀬口航平

ナショナル・シアター・ライブ 2023 「るつぼ」の瀬口航平のネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

圧倒的。るつぼはアーサーミラーの作品の中で一番好きなんだけど、やっぱり面白かった。三時間全く飽きない。
明らかに間違ってる方向にどんどんどんどん突き進んでいく様は、わかってるのにやめることができない、なぜか破滅の方向にいつも突き進んでいってしまう人間そのものを現してる。
そのエネルギーのムーブメントがものすごくて、ずーんとなるみたいな感想あったから覚悟してたけど、おれはむしろエネルギーもらった。
個人的には、この事態を引き起こしたのはアビゲイルではないと思う。彼女も自分の身を守るのに必死だった。。
じゃあだれか?それがはっきりとは見えないし、明確に誰か?という答えがないのもこの作品の興味深いところ。そうせざるを得なかった人たちしかいなかった。本質的な悪人はいなかったと思う。というより、本質的に悪人の人間そのものが存在しないと思うし。生まれたときから悪人の人なんていないし。じゃあなぜこんなことが?
法の問題?宗教の問題?魔女が存在すると最初に言い出した誰かの問題?いくらでも言えるけど、少なくとも登場人物の中にはいない。
見えないものを裁く、というセリフがあったけど、それがいかに難しく、もしかしたら裁くことなんて不可能なんではないかと個人的には思った。いくらでもこじつけできるし、結局行き着く先は権力者の都合の良い結論に行き着いてしまう気もする。そして根源をたどっていったら、もうそれはどこまででも深堀できてしまう。誰かを悪者にしないといけない、誰かの命を奪わないといけない教えや法は、深堀したら必ず底無し沼にぶつかるような、そんな気がした。そういうやり方には必ず個人の都合が入ってしまうから。その個人が、たとえ社会的に弱者と呼ばれる権力者とは程遠いか弱き存在の声だったとしても、それは終わらない闘争を促進させてしまうもののように思う。必ず抑圧とか悲しみを生む気もするし。結局は、何百年何千年と人類は同じことしてるし、永遠に終わらないやり方だと思っちゃう。

俳優陣がどんなモチベーションでこういう作品をやってるのか気になった。一日だけでいいから入れ替わりたいわ。
瀬口航平

瀬口航平