キョン太

波紋のキョン太のレビュー・感想・評価

波紋(2023年製作の映画)
4.1
好きだな、この映画。

全編灰色と水を思わせる色合いで描かれていて、主人公にあふれる怒りや悔しさ、やるせなさと理性が巧みに演出されている。

介護の必要な老父を残して行方をくらましていた夫が、病気になったからとのこのこ帰ってきたり、パート先に嫌な常連客がいたり、息子がいきなり連れてきた彼女が気に入らなかったり。
主人公は宗教に救いを求める。仕方ないよ、だって誰も寄り添ってくれないんだもの。

けれど自分を救ってくれるはずのものが役割を果たさず、意外なところで芽生えた友情が少しずつ育って力になっていく。
ずっとくすぶっていたマグマが噴火したようなエンディングは清々しくて、でも切なくて泣けてくるものでもあって。

人生ってなにもかもうまくはいかない。
耐え忍ぶ時も必要だけど、永遠に耐え続けていては心も壊れてしまうもんね。
ひたすらに歯を食いしばる主人公だからこそ、感情の昂りを見せられてほっとするし、ラストの鮮やかな赤が映える。

怒りや恨み、やるせなさが溢れているのにところどころで笑ってしまったのは、出演している俳優陣の演技の賜物だろうな。
キョン太

キョン太