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最後まで行くのnetfilmsのレビュー・感想・評価

最後まで行く(2023年製作の映画)
3.6
 猛烈な雨の中、走り出した主人公がうっかり人を轢く場面まではまったく問題がなく、これはオリバー・ハーマヌス×カズオ・イシグロの『生きる LIVING』のようなある程度オリジナルに忠実なリメイクなのかと思ったが、矢崎(綾野剛)が登場するタイミングがオリジナルよりも随分早くてびっくりした。然しそれは大方の観客が韓国版オリジナルを観た上で今作の鑑賞に臨むはずだという藤井道人の判断だとポジティブに捉えたが、中盤辺りまで観てみるとやっぱり何かがおかしい。韓国版ではチョ・ジヌンが演じていたキャラクターはまったく背景の見えない得体の知れないキャラクターだったから良かったのだが、 藤井道人は何と矢崎のキャラクターを結婚式の場面まで挟んで事細かに丁寧に説明してしまっている。もう一方の刑事・工藤(岡田准一)の方も少し情けない単なる悪徳警官に過ぎなかったものを、警察と癒着する仙葉組組長(柄本明)をもう1人足してしまい、オリジナルの両雄並び立つ姿が生かされず、何とも不気味なバランスの歪な三角関係になってしまっている。オリジナルではシングル・ファザーの主人公が年の行った妹と働けない弟を抱えるという設定が主人公の必死さを身を持って伝えるキャラ設定だったが、今作の妻(広末涼子)との冷え切ったやりとりも物語の本線とは残念ながらあまり関係がない。

 オリジナル版は111分で今作は118分なのだが、何だか体感としてはこちらの方が数10分長く感じたほど冗長に思えたのは、オリジナルが証拠隠滅に必死な2人のやりとりの緊張感が胸に迫ったのだが、今作の間延びする要因は何故か彼らの背後のもっと巨大な権力を可視化してしまうことに尽きる。2人の人間が1つの死体を巡り、右往左往する様子を回想場面は極力抑え、1本線のようなぶっとい構図で見せたオリジナルに対し、こちらは人間関係の相関図を描きたいが為に通常はアクションに充てられるべき多くの時間を単なる人間関係の説明に終始し、男同士の肉弾戦がクライマックスまで殆どない。一応人を轢くまでと母親の棺桶に死体を入れて埋葬する辺りは同じだが、 藤井道人はそれ以外の細部を変えて自分の刻印を刻んだ映画だと言いたいのかはわからぬが、葬式の次の日にもう片方の結婚式が執り行われたり、暮れも押し迫った12月28日からの4日間の物語だと規定したり、悪手の数々が過ぎる。国家権力の横暴や社会の同調圧力というテーマは監督の前作『ヴィレッジ』とも同工異曲なのだが、前作の批評にも同じことを書いたが、映画はあれもこれも欲張り、沢山描写しようとするのだが、肝心要の脚本があまりにも稚拙で要領を得ない。藤井道人は『ヤクザと家族 The Family』で暴対法により一気に没落するヤクザの姿を描いた。然しながら今作では仙葉組組長というヤクザが暴対法以後の世界でも依然として巨悪として君臨する。監督として守るべき信念がこれ程作品によってブレる人を何か久しぶりに見た。作品としてはやはり、シンプルな世界に男同士の対決を落とし込んだ韓国版オリジナルの方に私は軍配を上げる。
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