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シック・オブ・マイセルフのnetfilmsのレビュー・感想・評価

シック・オブ・マイセルフ(2022年製作の映画)
3.8
 Instagramのストーリーを見ながら、他人の人生に憧れる人々の不毛についてはこれまで何度も言及して来たし、何もない自分の姿にただただため息をつく若者に対してはInstagramを見るな、自分でいろと何度も何度も問い掛けて来たが、残念ながらそれでも承認欲求の肥大化した少年少女の自己愛については鈍い世代になってしまった。SNSを見るのが嫌なら見なければ良いだけの話で、例えば携帯を家に置き忘れたり、携帯の電源を入れなければ済むだけの話なのだが、それでも他人の投稿が気になって仕方ない。気になって見たものの、隣のセレブのリア充アピールにどうしようもない絶望を感じる人には、他人と自分とを比較しても何の意味もないと伝えたい。君には君の良さがあり、彼女には彼女の良さがあるのだけど、Instagramのストーリーというのは必死に取り繕ったリア充な自分自慢大会であって、当然ながら彼女たちは本気でスターのような人生を送っているはずなどない。Instagramのストーリーは冷静に見積もって7~8割盛っていると見るのが妥当であり、マウントを取りたい少年少女はそこに一癖も二癖もアレンジを加える。それはトーヨコキッズのODや港区女子の謎にブランド物をぶら下げた姿にも露になる。あなたはいったい何で稼ぎ、何を失ってしまうのかと。

 そんなある種の承認欲求の暴走を自虐的に今作は描くのだがあまりにも笑えない。見るに耐えない真正構ってちゃん的な地雷系メンヘラ女子を扱った『#ミトヤマネ』のような作品が日本にもあったが、それよりは確実に進んでいる印象で、今作におけるシグネ(クリスティン・クヤトゥ・ソープ)の承認欲求は明らかにタガが外れている。自分の彼氏への評価爆上がりが彼女にとっては受け入れられない。全ての基準が自分で、自傷行為をしても世間の評判を浴びたい彼女はネット・サーフィンで万能薬を手に入れる。犬に嚙まれてしまった老婆の返り血を浴びた彼女の承認欲求はある種のトリガーとなり、自傷行為がどんどんエスカレートして行く。自分を痛めつけた代償として何百何千良いねが貰えれば彼女は御の字で、いわば迷惑系Youtuberのように承認欲求が止まらない。美しかった顔はロシア製の錠剤によって爛れ、どんどん醜く成り果てて行く。然しながら彼女は自分の美貌を失ってでも、必死にインフルエンサーになろうとする。全てのバランスを失って行くシグネの痛々しさは中盤から後半になるにつれ拍車が掛かる。そのトーンは上流階級の破滅を扱う様なリューベン・オストルンドやアリ・アスターの世界観に近い。本国ではヨアキム・トリアーの『わたしは最悪。』の配給会社が手掛けたようで、舞台となる風景はまさに『わたしは最悪。』なのだが、淡々と破滅に向かう様はあまりにも笑えない。然し相変わらず北欧映画のフォントのセンスの良さは群を抜いている。
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