ぽん

シック・オブ・マイセルフのぽんのレビュー・感想・評価

シック・オブ・マイセルフ(2022年製作の映画)
3.9
最近観た「わたしは最悪。」(2021)は、“何者かにならねば”の呪いにかかった若い女性が人生にもがく様子をビビッドに描いていて非常に好感が持てた。本作「シック・オブ・マイセルフ」も似た症状の若い女性を描いているが、こっちのヒロイン、シグネは完全にダークサイドに堕ちてて殆ど露悪的ともいえるシュールでブラックなコメディになっている。奇しくも両方とも北欧の作品ってところが意外。めちゃくちゃ個人主義で自分は自分って意識が強そうなのに、なんでこんなに他人の評価を求めるんだろうか。こういうのって世界的に共通の病なのかもしれない。ネットの影響もあるんだろうなぁ・・・。

シグネはとある薬剤が副作用でヒドイ皮膚疾患が出るのを知って、その薬を闇ルートで手に入れて爆飲。この皮膚疾患ってところが肝で、分かりやすくビジュアルに訴えられるけど命には影響ないだろっていう、いい塩梅を狙った訳ですよね。
彼女の恋人トーマスは駆け出しの芸術家で、この2人は似た者同士。お互いに相手より優位に立ってたい、自分の方が目立ってないと気が済まないナルシストなんですよね。彼らにとって恋人は自分をよく見せるためのアクセサリーでしかない。フェイスマスク姿で退院したシグネとバスで一緒に帰宅するトーマスが、自分たちを凝視する女性客の目を意識して、シグネをぎゅっと抱き寄せて“献身的な彼氏”を演出するシーンなんて、うぅわっ!エゲツなっ!って苦笑いしてしまった。

シグネの方はウソつきまくって重病患者のフリをして、雑誌や新聞で取り上げられて有頂天になってって、もう、ずーっとこういうエゲツなくていやらしいぃぃ~描写が続くので、なんとも言えない気持ちになる。なんでしょ、不快とまでは言えない、でもこの人たちバカじゃんって突き放して上から目線で笑いのめすことも出来ない、ゆるフワな辱め?笑 だって自分にだってこういう心理がないとは言い切れないもの。こんな風にレビュー書いてるのだって、人の目に触れていいね!って思われたいって多少なりともある訳で。ついでに言うと実父がトーマスみたいな気質だからいろいろイヤな思い出も蘇る。古傷のかさぶたが痒くなる。

既出レビューで指摘があるとおり彼女はミュンヒハウゼン症候群ですよね。詐病で関心を集めようとする精神疾患。で、どうやら彼女の親たちも問題ありそうよねーってところを匂わせていて、キャラ設定に説得力を与えていた。

終盤はもうホントに悪い冗談が加速。シグネの成り上がりっぷりが危なっかしすぎてハラハラドキドキ。そしてカタストロフがあってホロ苦なラストに着地。いや、このストーリーテリングはなかなか見事じゃないでしょうか。人間心理を冷徹に見通していてエモかった~。(悪い意味でw)
ぽん

ぽん