ユーライ

きみの色のユーライのレビュー・感想・評価

きみの色(2024年製作の映画)
5.0
あらすじから想起される、少年少女が泣いて笑って喧嘩してニクいよこのォといった分かり易い起伏を欠いたまま、スイスイスーダララッタスラスラスイスイスイとクライマックスの学園祭に至るので逆に驚かされる。何某かの地雷――実は女の子が好きなのとかえげつないネグレクトとか熾烈ないじめ――を期待していたら大いに肩透かしを食らうだろう。個人的にアーメンソーメンと言えば、山田花子「魂のアソコ」だが、それこそ山田花子的な青春の鬱屈も怨嗟も憎悪もここにはない。主人公のトツ子さん、なかなかどうして危なっかしい子なんですけどねー。それだけに留まらず、少女漫画的に都合がよろしい展開が満載されており、離島の一つ屋根の下でうら若き三人組が同衾なんて絶対アカンやろ母親も何考えてんだとツッコまざるを得ぬ。そもそも色が視える設定、これいる?普段ならこんなお子様ランチ食えるかよと吐き出すところだが、時よ止まれ、世界は美しいとあえて肯定し「美しい嘘」を届ける姿勢に価値がないのかと問われれば、ねぇよとは言いづらい気分になっている。ミッション・スクールを舞台にしたことで不可分に踏み込んでいる「信仰」というテーマも、京都アニメーション放火殺人事件を経た上の結論であるならば、俺如きが文句を垂れる筋合いは一切ない。お気楽な「優しい世界」を描いているようだが、むしろ悲しみを抱えたまま精一杯泣き笑いしているのだと思う。ラストショットで起こる現象はこの世界に存在するはずがない、しかしその一瞬だけ確かに有り得た尊くかけがえのない奇跡……のような。作り手の祈りみたいなもんだ。テルミンは『ブギーポップ・ファントム』最終話で、街に眠る無数の可能性に手向けられた楽器。牛尾憲輔繋がり(2019年版『ブギーポップ』劇伴)で妙に感じ入るものがあった。
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