なんて温かい映画なんだろう。
アニメ映画の監督と言われて、まず思い浮かぶのは、宮崎駿監督じゃないでしょうか。
その宮崎監督の次世代を担う「ポスト宮崎」の名前が挙がり始めてから、随分経ちます。
作家性、興行面、その名前だけで、その監督の新作というだけで、観客を呼べるのは誰か。
新海誠監督か、細田守監督か、はたまた作家性が強い庵野秀明監督か。
僕はそれ程アニメには詳しくありませんが、新海監督、細田監督共にあれだけの記録的大ヒットを飛ばしたんですから、やっぱりこのお二人は日本のアニメを映画の第一線に押し出した感がありますね。
個人的に、僕はあんまり相性は良くないですが…😓
僕が「この監督の作品なら‼️」と思えるアニメ映画の監督は、頭の中に真っ先に思い浮かぶのは、山田尚子監督です。
ポスト宮崎、というのとは、ちょっと違いますけど、絶対に期待を裏切らないクオリティの新作が観られる、という安心感と信頼感があります。
と言っても、まだ「聲の形」と「リズと青い鳥」しか見てませんが、この2本を見ただけで、山田監督の凄さは、僕の中に忘れ難いインパクトを残しました。
本作は、その山田監督の新作。
今までは原作のある作品を映画化されてきましたが、今回は完全オリジナル。
ミッションスクールで寮生活を送るトツ子。
彼女には、人が「色」で見えた。
同じ学校に通う、きみは、美しい色を放つ、トツ子にとって憧れの存在。
きみのアルバイト先で出会った少年、ルイときみを誘い、トツ子はバンドを組まないかともちかける…
まるでそこに生きているんじゃないかと思ってしまうようなキャラクター。
気を抜くと見逃してしまいそうになる、ふとした表情や、手足の動き、仕草。
全てのシーンに、命が吹き込まれています。
今回は目の動き、特にトツ子の瞳孔の収縮描写などに、非常に引き込まれます。
恋に落ちた瞬間の色を捉えたトツ子のリアクションも、とても印象的。
どのキャラクターも素晴らしいのだけど、とにかくトツ子が抜群に活き活きしています。
とても個性的だし、空想しがちだけど、彼女の周りにはちゃんと友達もいる。
その描かれ方に、説得力があるんです。
きみとルイだけでは、きっと踏み出せなかった音楽活動への一歩が、トツ子のエネルギーが作用してバンド結成へ。
この3人だからこそ、動き出した音。
混ぜ合わさった色。
トツ子は、自分の色は見えないと言っていたけど、きっと暖色系の色だよな。
自分の感情はあまり表には出さないきみも、男の子ではあるけど、トツ子ともきみとも何の壁も感じさせずに一緒の時間を過ごせるルイも、どちらも素敵な色を持っています。
トツ子を演じた鈴川紗由さんは、初めて名前を聞いた方ですが、丸ごとトツ子を包み込むような愛情を持っているのが伝わってきて、いいです。
きみを演じたのは、高石あかりさん。
「ベイビーわるきゅーれ」でちさとを熱演していた女優さん。
本作では、自分の思いを胸の奥にしまい込んでしまう役なので、台詞も少なく、熱量が低いのだけど、ラストの大声は正直体が震えました。
ルイを演じたのは、木戸大聖さん。
この方も初めて聞いた方ですが、トツ子ときみの間に入っても全く違和感のない、自然な感じが良かったです。
そして、トツ子のルームメイト、森の三姉妹もいい。
目立った場面はないけど、この人達がいるから、トツ子は明るく、我が道を進めるんだろうな、と素直に思えます。
三姉妹の一人、さく役を、芸人のやす子さんが演じていましたが、なかなか好演されていて、言われなければ気付かなかったです。
きみのおばあさん役に戸田恵子さん、ミッションスクールのシスター日吉子に新垣結衣さんと、見事に脇を固めてくれます。
また、少ない出番ながら、トツ子のお母さんも好きでした。
きみのおばあさんもそうだし、ルイのお母さんもだけど、山田監督は、10代の若者の機微
を描くのに長けた監督さんだと思いますが、大人との距離感もとても大切にしている人だな、とも感じています。
また山田監督は、音楽に対する愛情もとても深い方で、初のオリジナル映画で音楽を描いた作品を手がけてくれたことも嬉しかったし、だから僕は山田監督の作品が好きなのだと改めて思います。
本作は主人公達がバンドを組む物語なので、オリジナルナンバーが作品の肝。
「水金地火木土天アーメン」って、ずっと頭の中でリピートしてしまいます☺️
どこか素人っぽさの残った楽曲が、作品にぴったり合っています。
途中「Born slippy」も流れる🤩
ルイが作中、テルミンを演奏するんですが、このテルミンの音も作品の温かさを象徴していたのかも知れません。
主題歌はMr.Childrenの「in the pocket」。
これもいい曲だな〜。
映画を優しく、柔らかく包み込んでくれます。
山田監督も語っていましたが、本作には負の感情がありません。
きみもルイも、思い悩むことはありますが、それは誰かを思いやる故の優しさからくるもの。
作品に感じた温かさは、そこから来ているのかも。
自分には色と音、温度も感じられる作品でした。
監督には感謝しかない。
次の作品が、早くも楽しみになってきました。
新作でも、吉田玲子さん、牛尾憲輔さんと組んで下さいますように。
監督にその気はないだろうけど、願わくば、一度実写映画を撮ってもらえないだろうか。
タイムラインを追いきれず、フォロワーさんのレビューを拝読するのに時間がかかっています。一度に時間をかけられないので、少しずつお邪魔しています。
今後とも宜しくお願い致します。