滝井椎野

青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ないの滝井椎野のネタバレレビュー・内容・結末

4.2

このレビューはネタバレを含みます

『かえで』から『花楓』へ。
渡されたものはとても重くて大きい。だからこそ、その先にある花楓の選択が大きな意味を持つ。

シリーズの持ち味であるSF味は抑えめで一人の少女の成長物語として突出した本作。
なかなかに辛い部分も多く、咲太の『かえで』と『花楓』に対する想いと葛藤が伝わってくる。特に受験当日の保健室での一連の流れが実に辛く歯がゆい。
これは『花楓』にも言えることで、彼女の『かえで』に対する引け目や周囲の人間への負い目がこちらにも分かるだけに、ただ心のなかで応援するしかできない自分が歯痒くなる。
それだけに、最後の『花楓』が自分で決断して『かえで』の代わりでない、自分自身の未来へと一歩踏み出したことには胸を打たれた。

自分の意志で選んだ未来は恐ろしくもあり希望に満ちてもいる。
それは『かえで』が一生懸命に生きたからこそある未来で、『花楓』が一生懸命に生きなければならない未来である。
辛いことも多い現実、世界はそれでも優しいものなのだと思わせてくれるような作品だった。
滝井椎野

滝井椎野