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ミッキー17のsyriacusのレビュー・感想・評価

ミッキー17(2024年製作の映画)
4.3
本作におけるキャラクター「マーシャル」は、現実の政治指導者であるドナルド・トランプ米大統領を強く想起させる存在として描かれており、その描写は極めて風刺的である。マーシャルの人物造形や物語上の役割には、トランプを模したと見られる象徴的要素が多く盛り込まれており、作品全体において彼がいわば「ヴィラン(悪役)」として機能している点が注目に値する。

たとえば、マーシャルが行う誇張された演説や「唯一無二」を掲げるレトリックは、「アメリカ・ファースト」を掲げたトランプ政権の政治的スローガンと通底している。また、赤い帽子を被った熱狂的な支持者たちの描写は、共和党の象徴的カラーである「赤」と、現実のトランプ支持者のビジュアルアイコンを連想させる。

さらに、マーシャルの好戦的な態度――すなわち、地球外惑星を植民地化する過程で、そこに生息する生命体の絶滅をも辞さない姿勢――は、目的のためには手段を選ばないトランプの政治手法と重ねて理解することができる。物語内で語られる「地球からその惑星までの移動に4年を要する」という設定も、米大統領の任期(4年)と符合しており、劇中でマーシャルが「4年半も宇宙船に乗っていた意味はなんだったんだ」と嘆く場面は、実際のトランプ政権の成果や継続性に対する風刺として解釈可能である。

また、マーシャルがバラエティ番組の司会も務めるという設定は、トランプも実際にバラエティ番組の司会をしていた事実と一致する。さらに注目すべきは、ミッキー18による狙撃のシーンである。これは、2024年6月13日にフィラデルフィアで発生したトランプ暗殺未遂事件を想起させる。劇中で描かれる、左耳に近い位置の頬に銃弾が掠るという描写は、実際の事件と非常に類似している。なお、本作の撮影は2022年に行われているため、これは単なる偶然とはいえ、先見的な演出に驚かされる。

ロバート・パティンソンによるミッキー17とミッキー18の一人二役も、特筆に値する。ミッキー17では気弱で冴えない性格を、ミッキー18では対照的に気性の荒い性格を演じ分けており、演技の幅広さが際立つ。特に、パティンソン自身の洗練されたイメージをあえて崩すような演出がユーモラスに機能しており、作品のトーンにも大きく寄与している。

また、カイを演じたアナマリア・バルトロメイの変化も興味深い。彼女は『あのこと』での繊細な演技とは異なり、本作ではより成熟した美しさを備えたキャラクターを演じており、その外見的変化――ふっくらとした顔立ちや長髪、凛とした眉や目元――が印象的である。

ナーシャというキャラクターは、船内で収監もされた黒人女性で、マーシャル亡き後の新たなリーダーとなる。その姿は、ネルソン・マンデラを想起させるような“闘争を経て登場する新時代のリーダー像”を象徴しており、保守的価値観とは対照的な革新的リーダーシップのメタファーと捉えられる。

最後に、劇中で登場するフレーズ “Have a nice dead.” は、死が当たり前のミッキーに対して放たれた「日常的な」挨拶がブラックユーモアに富んだ象徴的な台詞だ。
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