三樹夫

君たちはどう生きるかの三樹夫のネタバレレビュー・内容・結末

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

今作は前作『風立ちぬ』とかなり近しい、これまでアニメを作ってきた宮崎駿の話となっている。『風立ちぬ』では主人公が完全に宮崎駿で、アニメ作りを飛行機作りに置き換えて、私は堀越二郎のような人間という宮崎駿の告白映画であったが、今作ではあの異世界を作った大叔父は宮崎駿自身、それを引き継ぐよう頼まれた主人公も宮崎駿自身+今後アニメ作品など物語を作っていく人たちということを表している。
この映画は過去の宮崎駿作品の中では『千と千尋の神隠し』を思わせる。一方で、『不思議の国のアリス』や世話係のババアが全員で7人いることから『白雪姫』を連想もさせる。

母親を火事で亡くした主人公が継母を追って異世界を旅するのだが、森の入り口に入ってくシーンが完全に『となりのトトロ』と一緒で、中を冒険している時も『紅の豚』の飛行機の墓場と一致するようなシーンが有ったり、『もののけ姫』、『ハウルの動く城』、『天空の城ラピュタ』、『ルパン三世 カリオストロの城』、『風立ちぬ』など、過去の宮崎駿監督作品と一致したシーンが出てくる。眞人はボンボンなので食事は常に出来上がったものしか見たことが無いのだろう。なのでデカい魚を苦労して解体するシーンは、労働による成長というので『魔女の宅急便』を想起した。この異世界は大叔父が創造した世界であるのだが、つまり異世界は宮崎駿がこれまで作ってきたアニメ作品ということを表している。さらに13個の積み木に関して、13は観てる時から宮崎駿の作品数を表してるのではないかと思って数えてみたら、宮崎駿初の劇場監督作品『ルパン三世 カリオストロの城』から『風の谷のナウシカ』、『天空の城ラピュタ』、『となりのトトロ』、『魔女の宅急便』、『紅の豚』、『On Your Mark』、『もののけ姫』、『千と千尋の神隠し』、『ハウルの動く城』、『崖の上のポニョ』、『風立ちぬ』までの劇場監督作品が12作で、そして『君たちはどう生きるか』が13作目になる。
大叔父は美しいものを作りたい、外の世界は残酷と言っていたが、やっぱ宮崎駿も現実世界は辛いので美しい世界(自身が今まで創ってきたような世界)に耽溺したいという願望がゼロというわけではなかったのね。まあジブリの男に都合のいいヒロイン像を見てればなんとなく分かるけど。女性に限らず自分以外の他者は時には不都合なこと言ってきたりする存在で、自分とは完全に違う別人格の人間なんだし。他者と向き合わない他者を認めない、特に女性のキャラクターにおいて、作品ごとにアップデートはしてきているものの、男に都合のいい女性キャラクターを出してくるのとかほんとオタクっぽい。他にも『となりのトトロ』制作時に、サツキがあまりにもいい子過ぎる、ここまでやったら気持ち悪いと言う鈴木敏夫に、サツキみたいな子は実際にいる、だって俺の子供の時がそうだもんとナルシズム披露でバトル勝利や、ドキュメンタリーでパワハラをしているところをがっつり撮られるなど人格的には問題がある人であるが、ただし宮崎駿は自身のことを完全に清廉潔白、品行方正と思っているわけではない。それを表しているのが眞人が自分で頭に石をぶつけるシーンだ。眞人はあれを行うことで父親が学校にどなりこんでいじめっ子に復讐できるという悪意のある計算のもと行っている。本人もこの傷は悪意を表していると言っているし、自身の中に嫌なとこがあるというのは自覚している。
眞人は大叔父から世界を継いでほしいと言われるが、ここでは断り現実世界へ。眞人は宮崎駿自身であると同時に、創作活動を託された次世代のクリエーターという、ここまで宮崎駿の振り返りを行い次世代へバトンが託され、ここで君たちはどう生きるかというタイトルへとテーマが帰結する。眞人は宮崎駿でもあるので次へのバトンを渡されたということは、宮崎駿は14作目の作品を作りたいという創作欲があるように思える。眞人はアオサギのことを友達と言っていたが、眞人の供をしてきたアオサギは、宮崎駿とアニメ制作を共に行ってきた鈴木敏夫であろう。

ヒロイン1がママ(の少女時代)で、ヒロイン2がタバコババア(の若い時)というまさかのヒロイン設定。この映画の物語が動き出すのが実の母親が生きていると言われてからだし、宮崎駿のこれまでのアニメ作品のメタファーである異世界に入っていくのが継母を探しだすことだしで、これは宮崎駿にとってのアニメ制作のミューズは母親(的な女性)ということなのか。つーかママの少女時代がメインヒロインって相変わらず中々だな。宮崎駿はバブみって言葉ができる前から少女に母性を求めてたから驚きはしないが。特に漫画版ナウシカとか、ナウシカが少女であり母親であるというオギャりたい欲爆裂だったし。きめぇーんだよジジイみたいな自分に都合の悪いこと言ってくるような女性は出さず、自分に都合がよくて傷つけないで性欲もなくて自分のことを見捨てないような“母親”みたいな女性キャラって、宮崎駿と似たタイプの大林宣彦は無意識に女性に人格を認めてないとしか思えなくてキモい。

アオサギの歩行シーンの鳥の歩行の挙動のリアルさや、ジブリらしい走るシーンの躍動感や食事が美味しそうなど、何気ないシーンやアクションにおいても作画レベルは高い。宮崎駿の生前葬的集大成の話であるが、観ていて面白いわけではない。宮崎駿ってだけで宣伝しなくても劇場はパンパンだし、どんな映画か一切わからなくても観に行くし、内容的にはこんな感じだしで、そういうのでいかにも巨匠の作品といった映画だった。
ぎこちないところもあるけど、キムタクは年取った感じが出ててあの父親を演じるのににあたっては凄い良かった。この映画で一番良かった声優はキムタク。アオサギは『もののけ姫』のジコ坊みたいなキャラだったけど、菅田将暉がジコ坊みたいな演じ方であの俗物キモおっさん鳥に声当てて笑ってしまった。細かすぎて伝わらないモノマネでやる人いそう。
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