Jun潤

君たちはどう生きるかのJun潤のネタバレレビュー・内容・結末

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

2023.07.14

宮崎駿原作・監督・脚本。
スタジオジブリ作品としては『劇場版 アーヤと魔女』以来2年ぶり、宮崎駿監督作品としては『風立ちぬ』から実に10年ぶりとなる新作アニメーション作品。
引退宣言を撤回(?)したり、同名の小説はあるものの作中で重要な立ち位置にあるのみでストーリーは完全にオリジナルであったり、公開日が決まっても予告編やキャストも全く出さなかったり、これはもう非常事態ですよ。
2017年に制作がスタートしておよそ6年がかりで完成までこぎつけ、本日無事に公開を迎えたということで、ネタバレを踏む前に一刻も早く鑑賞せねば。

舞台は第二次世界大戦時の日本。
母を亡くした少年・眞人は、父と共に疎開して東京を離れる。
自然豊かな洋館で、新たな母・ナツコと共に暮らすこととなる。
女中の婆さん達との暮らしにも、新しい学校にも馴染めず、眞人の興味は庭にいる不思議な青サギと、離れた場所にある塔に向かっていた。
青サギを仕留めるべく弓と矢を自作する中で、眞人は母が遺した言葉が記された本を見つける。
本のタイトルは、「君たちはどう生きるか」。

ある日、妊娠中で体調を崩したナツコが森に入っていくのを目撃し、捜し出すために女中の一人であるキリコと共に森に踏み入る。
その先には、人語を話し、口の中から顔を覗かせる青サギが案内する洋風の謎の空間があった。
そこで青サギを仕留めることに成功した眞人だったが、部屋のはるか上にいる謎の老人に迎えられ、謎の世界で壮大な冒険の旅に出ることとなる。

ぬおおおお!!
これぞ今を生きる人のための、宮崎駿による、スタジオジブリのアニメーション映画。
これまでのスタジオジブリ作品を彷彿とさせるような作画やストーリー展開がバッチリ効いていて、新たな作品でありながら懐かしく馴染み深い感覚もありました。

作画については、最近のアニメに多い、写実的で現実のものに限りなく近い表現の真逆をいく、抽象的で登場人物たちの心情を表し、観る人の心をガッチリ掴みにくる芸術的な背景の描写。
さらには、不気味なのに愛くるしさもある擬人化インコや、現代版コダマ、ちいかわすらも超える圧倒的愛くるしいビジュアルのワラワラと、今後長きに渡って愛されて欲しいし、観た人は愛してやまないであろうキャラクターたちばかりでした。
加えて、主人公である眞人は不思議な世界で冒険を繰り広げる王道主人公でありながら、母を亡くし、戦争に翻弄され、一変した生活に馴染むことのできない年頃の普通の少年であり、それを序盤の少しの場面だけでわからせにくるほどのキャラの深みを持っていました。
結果的に悪意の象徴だった側頭部の傷は、母の苦しみに近付こうとしたためか、ナツコに迷惑をかけようという幼心からか。
唯一のキービジュだった青サギの正体があんな胡散臭い、皮肉で小憎らしいおっさんだったにも関わらず、最後にはやっぱり好きになっちゃうんですよね。

主に背景の描き方に、上述の通り歴代ジブリ作品っぽさを感じるのですが、冒頭の戦争シーンには『火垂るの墓』や『風立ちぬ』、前半にある日常の中に潜む不思議には『となりのトトロ』、中盤で眞人が迷い込むのは『千と千尋の神隠し』のような別世界、そして終盤の圧倒的ファンタジー感は『天空の城ラピュタ』や『もののけ姫』、『ハウルの動く城』のように確立された精巧な世界観から放出されていましたね。

ワラワラの正体や大叔父様の語り口的に、“下の世界”とは生まれる前の世界であり死後の世界、そして全ての次元や時代が等しく存在し、世界の今後を決める高次元の世界。
食物連鎖や生存競争、軍事政権下の日本やナチス・ドイツの存在、GHQ占領下の戦後の日本のアンチテーゼ、戦争などによって壊された世界を生きる人たちに委ねることなどの壮大なメッセージを描きつつ、一人一人の人間の生き方や、時間や次元、血縁も超えて繋がる人同士の繋がりなど、普遍的で大事なことも含まれていたように感じました。

今作のタイトル『君たちはどう生きるか』。
問いかけているだけなんですよね、こう生きるべきだとか、この生き方はダメ、のように受け手を突き刺してくるものではなく、鑑賞後も残り続ける心の一部になるようなものが伝わってきました。
作中の眞人の考えの深浅に関わらず、一個人が積んでいく石の選択や不安定さではなく、悪意ばかりの世界か、戦争のない世界か、どんな世界であっても『君たちはどう生きるか』、ということですかね。

鑑賞中にパッと気付いたキャストはキムタクだけで、菅田将暉やあいみょん、大竹しのぶに國村隼、小林薫などなどどこにいたのかを、すぐにでももう一度観て確かめたいところです。
しかしこの宣伝が一切無い中で公開され、予告編やキャストから中身を予想する余白も無いままで観れたことは今回限りの貴重な機会だったと思います。
それに、今作のような事前情報が全く無いことは、SNSなどが無かった頃は当たり前のことだったのかもしれないし、予告編やキャストから作品をイメージしたりそれを周囲に発信したりが当たり前になってきた今だからこその希少性もありますね。

他のジブリ作品が時代や世代を超えて長く愛されているように、今作も毎年か数年おきに何度も見て、見るたびに新たな発見を見つけたり、今作が秘めるメッセージを絶えず改めて確かめたいと、作品の解像度を繰り返し深めていきたいと思える、個人的にはまさに歴史的に伝説の作品でした。
Jun潤

Jun潤