きっしー

君たちはどう生きるかのきっしーのレビュー・感想・評価

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
4.0
母親からの愛情を充分に受けられなかったという思いは男子の心にトラウマとなって残っていて、おっぱい信奉とか膝枕好きとかに現れたりする。
表現者なら、それが作品に表出するし、宮﨑駿の場合、これまでもずっとそうだったのだが、本作の場合隠喩ではなくあからさまに表現されている。
テーマは、そんな自分のトラウマからの脱却と、次世代への継承。わかりやすい。

ベッドの柔らかさは、母に抱かれる柔らかさの表現に見えた。
異世界での若くなった婆さんが、シーンが進むほどに胸が膨らみ、代理母的に描かれ、最後にはその豊満な胸に顔を埋める表現もある。
もっと色々挙げればキリが無さそうだけど、とにかくこれほど母性へのこだわりが滲み出た宮﨑作品は無かったかも。

次世代への継承については、劇中のセリフもだが、制作のプロセスそのもので実際に継承しようとした部分も多かったのかと思う。
アニメーション技術的に、宮﨑アニメならではの、躍動感や質量の細かな表現。普通ならそこまでこだわらないのだが、徹底している。アカデミーアニメーション技術賞とかあれば受賞間違いなしの超絶技巧。今回はおそらく、それらの難しいアニメのシーンを、委託した後輩たちの会社(カラー、I.G. 、ポノック、4°C、、)へ継承しようとしたのではないかと想像する。

エンドクレジットに並ぶ協力会社の名を見ながら、そんなことを考えた。(普段なら必ず登場する韓国や中国の制作会社が見当たらなかったのも、国内の後進へ、という姿勢なのかもしれない)

黒澤明の『夢』もだけど、映像作家の晩年の集大成は、「私」映画になるのかもなぁ。

テーマは自分のトラウマからの脱却と、次世代(日本のアニメ制作者たち)への継承と書いたが、そういう意味では成功なんだろうけど、観客のことは置いてけぼりなので、見せられたこっちは「知らんがな」とツッコミたくはなるよね。素晴らしいクオリティのアニメなので、その分の価値は十分あるのでいいけども。
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