おまつりちゃん

君たちはどう生きるかのおまつりちゃんのレビュー・感想・評価

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
4.5
まず初めに、私はこの映画を映画としてあれこれ述べるには、あと5回以上観ないと感想を纏められない気がする。
なのでこれは映画としてどうこう評価するものではなく、単純に好きとかそういう感覚的な話になります。


観劇直後の感覚は、インスタレーションなどのアート作品を観た後のそれにかなり近かった。
「アート」なんていうと難解なものであったり不可解なものであったり、「分からなくてもいいや」で終わっているものとして揶揄しているみたいになりそうだけれどそうではなくて、前提として、私はそういった作品たちから沢山の内面的な気付きを得たり、感情を突き動かされたりしてきた体験から、ポジティブな意味合いでこの言葉を選んでいます。

でも映画館でそういうアート体験をすることには既視感があって、途中で「ホドロフスキーでも観てんのかな」と思って笑ったんだけど、要はおそらくカルト映画の空気に近く感じたのだと思う。
それを「ジブリ」という人々の慣れ親しんだ箱に入れて渡されたら、それは多くの人が触れたこともないものに予想外に触れたりして困惑したりだとか、謎の爪痕を残されて衝撃だったりとか、トラウマになったりとか、あとは「?」で終わったりとか、そういう反応が続出するだろうことにも納得。
最前を行く表現者が一般人を騙して飲み込んで行くことはすごく良い詐欺だと思っているので、いいぞいいぞと思いました。今回の宣伝全般無しなのも一役買ってる。


作品面での話。
行間がとても沢山用意された作品だった。
それでいて世界観や展開は寝不足の時に見る夢の様に混沌として忙しく、絶妙に気持ちが悪い。

もちろん宮崎駿さん特有のモチーフや軸は今回も分かりやすく描かれているのだけれど(むしろこうまで前作通してそれがあるのがすごい)、もっと柔らかくて繊細な、もはやグロテスクなまでの内面に忠実に向き合ってドロドロと引っ張り出してきた感じがありました。
というか、ずっとそういうことをしながら向き合い続けてきて、今こういうレベルに達している、というふうにも感じる。

私は今回よく見かける「これは遺書だ」とか「走馬灯だ」みたいな、年齢という情報ありきでうまいこと言ったったみたいな表現があまりしっくり来てなくて、そら毎回遺書みたいなもんだろうよと思っています。
当たり前のこと言われてる感じで嫌だなってだけなんだけど、ただ、そういう風に言う人が多いのもなんとなく納得はしていて、たぶん精神の奥底にある、グッと内面的な部分の露出度が上がって、それに気が付きやすくなったのだと思う。

何れにしても、どの時期もその時々の自分と気が狂いそうなほどに対峙してきた監督だなと感じるし、その上で新たな扉を開いているというか、どこかに対して開き直ったというか、そういう変化をまだ見せることに驚いた。
最後の作品になるかどうかの多角的な推測は置いといて、気持ちとしてはまだまだ彼の作るものを見たいというのが素直な感想です。