サマルカンドサイトウ

君たちはどう生きるかのサマルカンドサイトウのネタバレレビュー・内容・結末

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

1943年、疎開先で不思議な体験をした眞人。
真実を求める子を待っている日常はすごく理不尽であり、嘘だらけ、詐欺だらけ。とくに
軍需工場で働く成金で好戦的な父は、直人の母の妹、夏子と愛を育んでいた。
直人も疎開先でいじめにあい、自傷行為にはしる。

世界が汚れて見えたそんな時だった。
戦争で青春を奪われた少年は隕石のように空から降ってきたと言われる不思議な巨大石に入り込む。
そこは時空が止まるパラレルワールド
鳥たちが威勢よく兵隊として言葉を話す国だ。
迷い込んだ夏子を探す中で、火の少女と呼ばれる若き母や大叔父と出会う
彼らは死後のもう一つの世界で生きる存在。

眞人は彼らとの交流のなかで、
石が不思議な力を溜めこみ
純度を失い、世界のバランスが崩れたことを知る

維新直後に生まれた大叔父は近代日本を作った世代で軍国化への後悔をいだきつつ、直人にとう。

お前はどんな国を築くのか?

眞人は死後の世界で暮らすこともできる、ただ、
出した答えは現実に戻り、友だちを作ることだった

眞人は
IFの世界に別れを告げ、現実に戻る
夏子のことも母と呼ぶ。

受け入れた現実世界では、
好戦的でバカの象徴の鳥たちは
物言わぬ排泄をする可愛い存在に戻る
これは一般国民の象徴か

焼け野原になった日本でどう生きるか?
何に希望を見出すか?

帰せずして、
答えとなったのは
声をなくして、排泄しかしない可愛く空に飛び立つ鳥だった。
中身が空っぽの経済大国を支えた全力サラリーマンのように。

では、
果たして眞人はどこに行った?
時代に悶々とする少年は何をしている?
時流に乗れなくてもいい
逃げ出したい気持ちの象徴であるパラレルワールドの記憶を持ちながら、
そこを踏み台にして、新しい現実に向いすすもう
静かな堅い決意を1人の少年の成長から感じた


〜考察〜
メタファーの整理
1・輪廻転生の死者の世界=パラレルワールド
  近代の超克を掲げた日本だが、アジア思想で西洋近代を越える目標は単なる復古的帝国主義に変容する。戦時下のもう一つの出口は西洋世界、鳥たちの自然の世界など、近代日本が葬り去ったありえた理想世界。外見は西洋的で自然と暮らし、中身は命の循環が怒る東洋思想。これこそが、アジア主義の目指したありよう。ただし、そのアジア主義の中に好戦的な要素が内包されていることをしっかり描いている。これはパラレルワールドの行き詰まりでもある

2・鳥は一般市民のメタファーであり、ゾンビ化に変わる表現。鳥目は闇をみえない。盲目ゆえの馬鹿の象徴

3・眞人は作者なのか。戦後の再欧米化に手のひら返しで乗れなかったエリート層。
モデルは誰か?ぼくは日本の戦後のリベラル知識人の筆頭、丸山眞男かと思う。現に丸山もペンネームの揺らぎが、真男となっている著があったはず。
だから、初めて眞人がパラレルワールドに足を踏み入れたときに
真実を求める人みたいに言われたのではないか。

4・パラレルワールドは行き詰まり、現実の軍国主義も行き詰まりを描く時点で、
丸山真男モデルの眞人はどう生きたのか?書に向かったはず。しかし、友達を作るといったものの東京に戻ったのは1947年
哲学エリートの実践の下手さを暗示している?

5・
大叔父→維新以降の近代化を進めた世代
父→戦時下の好戦的なエリートの象徴
眞人→戦後に活躍する知識人の苦悩
鳥→馬鹿な一般市民。しかし高く飛ぶ
夏子のお腹の子→ナゾ。これが最大のわからなかったメタファー。
ばあ→土着の神。