アナスタシア

君たちはどう生きるかのアナスタシアのネタバレレビュー・内容・結末

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

映画館で見ながら、宮崎駿監督の作品は今回で最後なんだなぁ…と、うるっときた。
 想像と違って今までのジブリが全て詰め込まれていたと思う。タイトルだけ見たら、戦時中を生き抜く青年や、あの本のアニメ化だと先入観を持っていた人も多かったはず。
 ストーリーは、日本がまだ平和ではなかった時代、「苦しい現実」から始まる。今の日本だったら、何かしら夢を抱きはじめる年頃の青年。戦争で母を失い、道を歩いていても軍人を称え、父は自己中心的、新しい母は実母に似ていても心を開けない。学校では暴行被害。自傷。感情を押し殺す毎日。いつまでも未来が見えなくて心が死にそうな青年は、半人間の青サギに心の闇を見透かされ、まとわりつく青サギを消そうとすることで、とうとう大叔父が創り上げた「下の世界」に連れて行かれてしまうところから、宮崎監督の世界が繰り広げられていく。
 真人は一冊の本と出会っていた。母からだった。夢なのか現実なのか自分の体がどこにあるのか。彷徨う中で、生と死の残酷な世の中を見せる大叔父の精神世界に飲み込まれそうになったが、キリコやヒミ、夏子の世界とも交わり、生きてほしい、自分も生きたいと思えるようになっていく。徐々に真人は自分の力で自らの精神世界を築き上げていき、この世における自分の存在、自分の役割を理解することができるようになっていった。そして、真人の中に「意志」が芽生え大人になって現実の扉を開けた。
 目まぐるしい場面展開や抽象的な会話が、いかにも夢を見ているような幻想的な世界を表していて簡単に理解することは難しいが、登場する生きものの言動や意図、場面展開に筋を通そうと、点と点を結ぼうとするものではないと気づいた。宮崎監督としては、見てくれた方々に、自分の隠れたメッセージをどう理解してくれたか、受け止めてくれたかをむしろ知りたいはずだと思う。