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ジョーイのotomisanのレビュー・感想・評価

ジョーイ(2020年製作の映画)
4.0
 無駄を嫌うならトースターひとつでタバコも吸えるし手も温まる。ついでに人生最後の企ても。
 無駄が嫌いだから光も節約、いやな相手には呼び出しにも居留守。それでも出かけるノースピア、空は北風オフシーズン、道化師稼業も閑古鳥だがひとりが良ければここは好都合だろう。

 これが素顔、それともそのつもりなら、「普通」を装うには逆に一工夫がいる。それがまさか、この道化顔に食堂のアニーから声が掛かってしまった。先年の「ジョーカー」の倣いで、どんな悪ふざけに苛まれるのだろう。
 と思ったら「普通」のジョセフがアニーと二人、普通に遊んで一杯やって、普通のおじさんおばさんじゃないか。ところが、そのジョセフの「普通」の化けの皮が剥げて. . . だがね、トースターでは死にたい気持ちは無駄になる。

 このはなし、アニーも道化になってジョセフとこころを一にすると思えばそれだけで心温まるだろうが、そうは問屋が卸さない。
 俗語の"Joey"が「バカあほ」の類なのに鑑み思い出すのは'84年の映画「モロン」。それは宇宙観光中遭難したパンクミュージシャンそっくりの「低能」宇宙人がその格好のままロンドンでバンドに仕立てられる話だが、こちらは道化そっくりの宇宙人ジョセフとアニーのやっと巡り合えた宇宙の果てに違いない。
 素顔のままで道化を偽る漂流者と素顔を偽って「普通」に生きる潜伏者が互いに素顔を認め合えたひと時である。広い宇宙どんな人間がいても誰が知ろう。
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