ブタブタ

劇場版 推しが武道館いってくれたら死ぬのブタブタのレビュー・感想・評価

5.0
平尾アウリ『推しが武道館いってくれたら死ぬ』はアニメ化・実写ドラマ化そして遂には劇場版とまさかここまでやるとは思わなかった。
名古屋LOFTの今はなき地下コミック売り場で何故か書店推しで表紙並べ配置されててその大量の女の子達が並ぶ鮮やかな表紙が目に止まったのが『推し武道』との出会いだった。

《アイドル》なるジャンルとは縁のない人生でしたがえりぴよさんのお陰で《アイドル》なる物の魅力とその深遠なる世界について僅かながら知る事ができた。
《アイドル》とそのファン。
ナンシー関氏は《アイドル》とは歌や踊りが上手いとか顔が可愛いとかではなくファンとの間(LIVE会場だけでなくテレビや電脳空間、ファンの頭の中含む)に特殊な空間を作る事ができる能力を持つ人だと語っていた。

最近は《推し活》なる、単に好きなアイドル・タレントのファンという物を超えてその情熱や狂気とも言える活動や思想迄も研究対象となったりファン側を主役とする創作物(本作が正にそうですが)も増え始めた。

実写版えりぴよさんを演じる松村沙友理さんて元何とか坂の人なのね。
劇中のアイドル達よりえりぴよさんの方が可愛いのはおかしいって意見も散見しますがあれは原作も何故かえりぴよさんの方が可愛い・美人に描かれてるので原作通り。

岡山のローカル・マイナー地下アイドルChamJam、そのメンバーの中でも特に人気のない市井舞菜(伊礼姫奈)にある日突然取り憑かれた様に狂い始める普通の女性えりぴよ(松村沙友理)の推し活の日々を描くのが『推し武道』の基本ストーリー。

劇場版だからって特に凄いことも何も起きないのが『推し武道』ならではだと思う。
謎の五反田路上ライブ、ChamJamのローカルCM出演からえりぴよが舞奈と出会った七夕祭りの三年後の再びの邂逅とそこに訪れた小さな奇跡。
舞奈がセンターで唄う新曲【わたしたちが武道館にいったら】で涙が流れた。
恐らく、ChamJamが武道館のステージに立つ日は残酷だけどきっと永遠に来ないのだと思う(原作では分からないけど)
地方のイベントのステージとそこで唄うChamJam、えりぴよさんにとっては舞奈がいる場所こそが武道館であり『推しが武道館いってくれたら死ぬ』というタイトルは逆説的にそんな日が来る事は永遠に来ないのは分かっている、なので自分(えりぴよ)の舞奈へのこの思いは永遠であるという意味だと思う。
クライマックスはえりぴよさんと完全に気持ちがひとつになっていた。
アイドルとは儚い物。
活動期間も短く、そしてマイナーなアイドル達のその多くは殆ど記録にも記憶にも残らない。
これはアイドルとファンのファンタジーだと分かっているけどChamJamが、いや舞奈という存在がなくなった時にえりぴよさんはどうするのだろうと思ってしまった。
それでもえりぴよさんは舞奈を推し続けるのか。

それから芥川賞を取った『推し燃ゆ』それから現実世界では香川照之さんを21年にわたり推し続けていた作家さんがいて《推し》が突然あんな事になってしまった思いを綴ったエッセイを読んだ。
推しとファンの関係とは外野が思うより遥かに業が深くまた楽しくもあり複雑な世界なのだと思いました。
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