しの

映画 すみっコぐらし ツギハギ工場のふしぎなコのしののレビュー・感想・評価

3.8
映画すみっコ初のガッツリアクションやサスペンスで楽しめるのはもちろん、1作目の脚本家が復帰したのもあり、油断してるとグッとくる語り口が復活。「資本主義という名の成長主義がもたらしたもの」が端的に示されていてビビる。ラストの演出は粋すぎた。

これまでやらなかったジャンルをやることで、すみっコぐらしのアニメーションとしての新たな楽しさを発掘しているのがまず良かった。工場内部の動きが楽しいし、後半はすみっコぐらしらしからぬスケールの大きさに映画特別仕様を感じる。これによりジャンル転換のメリハリも生まれているし。

物語としても、すみっコぐらしで労働を描くことのミスマッチ感がストーリーテリングにうまく寄与していると思う。前半は「優しい世界」力で楽しく見せつつ労働のある種の本質をサラッと体験させ、後半になると次第にミスマッチ感のイヤさの方が際立ってきて……という流れが分かりやすい。こうすることで、とにかく生産を増やして売り上げを上げて株価を上げて……という成長主義が世界的に失敗してきているという情勢を、寓話に違和感なく落とし込めているのは素晴らしいことだし、そこに対するアンサーがすみっコぐらしならではのものになっていて、質が高いなと思う。

正直、扱っている問題は現実でも解決できていない問題なのでふわっとした着地ではあるけども、しかしその問題と向き合うなかで必然的にコアとなってくるはずの部分、即ち「役割を全うできないものは価値がないのか?」という問いを(しかもすみっコ精神に接続させて)描いているというだけで意義深い。

そしてエンドロール後のとある演出よ! あえて言えば、成長主義からの解放というよりは大きく役割からの解放という話になっているので風刺としてあまりアクチュアルなオチでないのだが、しかし「本作を映画館で観た思い出」という否定し得ない体験によって“モノを目的化しない利他心”を肯定するのは素晴らしい仕掛けだと思った。
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