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ザ・キラーのfujisanのレビュー・感想・評価

ザ・キラー(2023年製作の映画)
3.9
11/10からNETFLIXで公開される映画ですが、先んじてスクリーンで観てきました。

「セブン」、「ファイト・クラブ」、「ソーシャル・ネットワーク」、「ゴーン・ガール」など、数々の名作を世に送りだしているデヴィッド・フィンチャー監督の新作。

完璧主義で有名な監督で「ソーシャル・ネットワーク」の最初のセリフを100回近く撮リ直したエピソードなどが有名。最近はどうなのか分かりませんが、本作もかなりこだわりが見える作品でした。

リアル路線で静かに淡々と進む作品が多く、好き嫌いが分かれる作風とも言えますが、「ドラゴン・タトゥーの女」、「ゴーン・ガール」など、年々その傾向が強まっている気がしています。

そして2023年の本作「ザ・キラー」は、もはや禅の世界に近いような、静かーな作品になっていました。

ということでまず先に書いておくと、デヴィッド・フィンチャー監督作品が好きなだけではなく、「タクシードライバー」や近作だとポール・シュレイダー監督の「カードカウンター」など、静かーな映画が好きじゃないと、この映画は辛いかもしれません。



■ あらすじ

Filmarksのあらすじが薄いので、少し補足。

本作はフランスのグラフィックノベルシリーズ『The Killer』を原作とし、「セブン」でタッグを組んだアンドリュー・ケヴィン・ウォーカーが脚本を担当。

主人公のクリスチャン(マイケル・ファスベンダー)は徹底的に無駄を省くミニマリストの殺し屋。とあるターゲットを殺すためにホテルの向かいにある貸オフィスに部屋を借り、毎日延々と殺しのチャンスを待ち続ける。

ある日とうとうチャンスがやってくる。サイレンサー付きのライフルを構え、ルーティンとなっている独り言を唱えつつ脈拍が落ち着くのを待ち、引き金を引くが、標的を射ち漏らしてしまう。

一転して世界中から追われる身となったクリスチャンは追手から逃れ、闘いつつ、自分自身のミスの落とし前をつけるため反撃に出る、、という感じです。


■ 主人公について

主人公を演じているのは、リドリー・スコット監督の「悪の法則」で絶望に堕ちていく主人公役を演じていたマイケル・ファスベンダーで、本作では、アクションシーンも見事にこなしていました。

本作の主人公は雇われの殺し屋。「イコライザー」シリーズで、ナプキンを綺麗に敷いてから紅茶を飲むマッコールさんのように、病的に几帳面な性格です。

手を洗った後は必ず洗面所を消毒し、分解した銃も机の上に綺麗に並べる。行動はルーティン化され、それを絶対に崩さない徹底ぶり。彼は仕事でミスをしないために、常に同じフレーズの独り言を唱えています。

『・・計画通りにやれ・・』
『・・予測しろ 即興はよせ・・』
『・・誰も信じるな・・』
『・・対価に見合う戦いにだけ挑め・・』

毎回同じフレーズで心を落ち着かせるとともに、腕時計代わりに身につけた活動量計で脈拍数を測っているクリスチャン。

ここまでやっといてミスるんかい!って思わずツッコミ入れてしまいましたが、結果的に、ジョン・ウィックのように世界中の殺し屋から追われる身となり、常に移動し続ける生活となります。


■ 物語の構成

本作は6つの章に分かれて進行します。

一章:パリ/標的
二章:ドミニカ共和国/隠れ家
三章:ニューオリンズ/弁護士
四章:フロリダ/ブルート
五章:ニューヨーク/ザ・エキスパート
六章:シカゴ/クライアント

各章には独立した短編のように起承転結があるのが面白く、淡々とした内容であっても飽きない構成になっています。

また、クリスチャンの所作がとにかく美しい。

たとえば狙撃してから銃を分解、スクーターで追手を巻きつつ証拠品を次々にゴミ箱に捨てていき、パスポートを入手して出国する。一連の動きに一つのムダもなく、まるでダンスを踊るかのように美しくこなしていく映像は、まさしくフィンチャーの画作りだと思いました。


■ 感想と考察

かなり好き嫌いが分かれる作品だと思いますが、私は好きな作品でした。

計算され尽くした映像と淡々と同じ動きが繰り返される静かな映画でしたが、同じ動きであるからこそ、ほんのちょっとした違いに気付けるようになる。まるで微妙な出汁を味わう和食のような映画でした。

また、各章によって撮り方や内容にアクセントを入れている遊び心も面白い。

二章は「ジェイソン・ボーン」のグリーングラス監督のような手持ちカメラの映像になっていたり、四章では殺し屋の大男とリアルで生々しい長時間の殴り合いがあったりと、章が変わるたびに次はどんな映像があるのかと楽しみになります。


ルーティーンを愛し、繰り返しの行動を愛するクリスチャンですが、終盤、ルーティーンを自ら破った行動に出、その行動の意味とラストシーンは絶妙に繋がっています。ラストシーンは賛否分かれるかもしれませんが、終盤にかけての盛り上がりは見事。

まるで、静かで単調な繰り返しから、終盤大きな盛り上がりを見せて終わる、ラヴェルのボレロのような映画でした。

最初から最後まで見事なフィンチャー作品。配信でももう一度観たいと思っています。

--(おしまい)--


■ 余談

・パンフ無し。フライヤー(チラシ)もなし

・相手がまだ話してる途中に射殺するのはマーティン・スコセッシに似てる。『観ている方が予想する少し前のタイミングで殺す』やり方

・デヴィッド・フィンチャー監督は2020年に4年契約でNETFLIXと独占契約
参考:https://theplaylist.net/david-fincher-netflix-exclusive-deal-20201111/
2024年までと考えると、次の作品もNETFLIX限定でしょうかね・・・


・『トンネル視は有利だ』
・『退屈が人を破滅に導く』
・『目を見た瞬間にどうするか判断する』
・『簡単に近づけることを示したかった』
・『サヨナラ ノースアメリカ』




2023年 Mark!した映画:311本
うち、4以上を付けたのは34本 → プロフィールに書きました
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