このレビューはネタバレを含みます
脳は記憶を蓄積し、その記憶は美しい物語に脚色する。
そして時には残酷なほどに苦しみの極限に追いつめる反面、時には救済のためのカタルシスへと導いてくれる
ナチス軍資金集めのためオーストリアの貴族達の資産を管理していた公証人ヨーゼフはゲシュタポにホテルの一室に監禁されるが
自由に出歩くこともできず、日常会話さえもできず、そして書物から知り得る知識や愉しみも奪われる苦しい精神的拷問の日々が続く
そんな時に偶然に手に入れたチェスの本で彼はチェスプレイヤーとしての才能を開花していくのだが
さて、皆さまここで
【邦題に騙される事なかれ】
これはチェスを武器にナチスを翻弄させる男の話でもなくチェスによるサクセスストーリーでもない
一人の男の脳内の記憶がふわふわと浮遊して時巻軸が狂い
観客は本当に起こった出来事なのか作られた話なのかわからなくる
一人の男を追いつめた精神的拷問
その極限を演じきったオリヴァー・マスッチには壮大なる拍手を送りたい
終盤ヨーゼフのために「ホメロス」を読んで聞かせる精神病棟の看護人は
運命に引き裂かれ会えなくなった妻アンナを演じた同じビルギット・ミニヒマイヤーだけど
その優しい看護人の姿をヨーゼフは妻アンナに重ねてたのかと思うと そこで涙