ひもさん

アンダーカレントのひもさんのネタバレレビュー・内容・結末

アンダーカレント(2023年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

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登場人物はみんな「本当の自分」を曝け出して、拒絶されることを恐れている。
それゆえに、拒絶されないために、相手の求める自分を作り上げる。
けれどもそれは、世の中で普遍的に起きていることであるし、別にそれ自体が悪いとも思えない。

他方で、自分を偽るというのは、どこかで自分に都合のいい部分があるから、という打算的な側面もあり。
その打算的なところが、そのうち自分で許せなくなってくる。
相手のことを大切だと思えば思うほど、それは重くのしかかる。
かといって、「本当の自分」を今更曝け出すこともできず。
結果的に、相手を傷つけるような結末に至ってしまう。

騙すなら、最後まで責任を取って騙し続けてほしい。
醒めない夢を見させてほしい。
それができないなら、最初から夢を見せないで。

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夫の出ていった理由は、本当なんじゃないかなって思う。
好きだから、本当の自分を曝け出したい。
けれども、本当の自分が拒まれるのが怖い。
その葛藤が、苦しい。
それなら、逃げてしまおう。
わかるような気もする。

「もっと早くこういう話ができてたら」と妻は言ったけれど。
そうなのかな。多分、早いか遅いかの違いでしかなくて。この二人には、この結末しかなかったのではないかと思う。

「こういう話」をしなくても、別にいいんじゃないとも思う。
お互いに虚像を愛していたとしても。
それが本当に虚像かなんて、誰にもわかりやしない。

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お兄ちゃんは、なんなんやろね。
お兄ちゃんは、最後に「本当の自分」を曝け出した。
多分、拒まれなかったんだろう。
かといって、直ちに受け入れられたわけでもないのかもしれない。
それが、あの距離感なのかな。

妻は、途中で、自分のことを好きか尋ねたけど。
あのシーンは、自分なりの解釈すらあまり浮かばなかった。
二人が恋愛関係に至るイメージも最後まで持てなかった。
恋愛関係というより、兄妹関係という感覚。
お兄ちゃん関係は正直よくわからず。

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「分かる」ってなんなんだろう。
自分のことすら言語化することは難しい。
他人のことを言語化するなんて、なおさら難しい。
「その人をその人たらしめてるもの」って言語化できるのかな。
言語って別に万能でもないよな。
言語化した瞬間、違う気がするし。

人のことを「分かる」って多分存在しないんじゃないかなと思う。
部分的、断片的に「分かる」ことはあり得るとしても。
だから、「分かる」っていうのは幻想であり、妄想であると思う。
つまり、考えても正解に辿り着くことはなく、その意味では考えるだけ無駄なのかもしれない。
だけど、「分かりたい」とも思う。

難しいなあ。
俺にとってはいい映画でした。
ひもさん

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