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ナイアド ~その決意は海を越える~のdojiのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

挑戦することに年齢は関係ない、というメッセージは数あれど、ここまで説得力と現実的な描写でやりきった映画はそうないのだろうなと思う。主演ふたりはレッドカーペットにあらわれたらこころを奪われずにはいられない美しさなのに、この映画ではほぼメイクアップでしわを隠すことなく、60代をそのまま演じている。エンドロールで比べるとわかるけれど、ふたりとも本人としか思えない身振り手振りで、すごいひとがすごいことをやっている、というつくりもの感をほとんどなくしている。この説得力で「遅いなんてことはない」と言われたら、胸に響かざるを得ないと思う。

一方で、挑戦の背景には狂気と捉えられ、はた迷惑なほどの執着に周囲が辟易としていく様子もきちんと描かれている。ナイアドの行動原理はそこまで説明されないし、やると言ったらやるの一点張り。その理由を感じさせるのを、泳いでいる最中の彼女の回想に限定したのはとてもいいなと思った。海の中でただひたすら数を数えながら泳ぐ時間は孤独な内省に満ちていて、父にかけられた励ましのことば、コーチからの性被害など、さまざまなことが混ざり合って彼女を突き動かしていることがわかる。ラストシーンの観衆と、その真ん中で感謝を述べてボニーと抱き合うシーンはぼろぼろ泣けてきた。

『ベンジャミン・バトン』のワンシーンで、ベンジャミンがテレビでナイアドのニュースを観て微笑む場面があったけれど、だれもが等しく老いに向き合っていくなかで、彼女のような存在とその挑戦が持つ意味は忘れずにいることがとても大事なのだと思うし、映画はそのことに確実に寄与する。力強い感動をひさびさにもらった。
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