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マエストロ:その音楽と愛とのdojiのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

フェリシアの表情の上にタイトルが出て、彼女こそがマエストロだ、と言わんばかりのラストに、やや割り切れない思いが残った。彼女が「幸せだった」とはかならずしも言い切れない一方で、レナードは彼女の存在によって救われている。バイセクシュアルである彼にとってのフェリシアへの思いと、他の男性たちへの気持ちとが、実際のところどのような違いがあったのかはわからないけれど、結婚という手続きを経て、かつ彼のことを思うフェリシアのことがありながら、揺れ続けてしまったレナードが彼女のことを傷つけていたのは事実なのだし、彼女の人生やキャリアも、レナードによって大きく変えられてしまったことも否定できない。それでいて、フェリシアのことを誰よりも大切に思っていたレナードの感情もまたひとつの事実なのだから、人間関係の割り切れないさ、どうにもならなさが、観ているもののこころを引き裂いていく。

年齢を重ね、時間を共にしていくことのかけがえのなさもきっとあるのだろうなと思う。痛みを抱えながら年老いていくふたりが美しかった。

フェリシアのことをレナードから紹介されたボーイフレンド、娘に打ち明けられない事実を飲み込むレナード、「兄は誰よりもあなたのことを思っている」とレナードの妹に告げられたあとのフェリシアなど、わりきれないさを飲み込むように、虚空を見つめる俳優たちの表情をとらえるカメラがよかった。モノクロの日々を映す画面にも変えがたい美しさがあった。
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