genarowlands

ハーミド〜カシミールの少年のgenarowlandsのレビュー・感想・評価

4.1
イスラーム映画祭にて。カシミールと映画についてのアフターレクチャーつき。(長文です)
インドとパキスタンの境の山岳地帯、カシミール地方がまだ自治区だった頃、行方不明になったムスリムの父を神さま(正確にはアッラー)から返してもらおうとする幼気な少年の話。良作です。

カシミール地方は大多数がムスリムで、自治区とはいえ、インドの軍隊が厳しく統治していたため、住民との軋轢が日常。家族が行方不明・殺害された母や妻たちのデモなど、その様子もまた生々しく描かれていた。

幼気な少年の無邪気さと健気さが反則級の愛らしさ。少年は<神さまを見つけ出して>父を返してとお願いを訴えるのだった。

こんなに小さな少年をも駆り出し銃を持たせようとする過激派たちもいた。

鑑賞中は殺伐とした状況の中でも少年の愛らしさと心温まるエピソードで、良い映画を観たなあと思い、かつて観た「バジュランギおじさん」のカシミール問題の取り扱い方はファンタジーだったと、カシミールのピリピリした状況を感じとれてよかったと思った。

しかし、レクチャーでもあったように、映画はすべてを語れないし、誰もが全貌をわからない。当たり前だが立ち位置によって紛争の見方は変わる。

レビュー書いていて思ったことは、幼気な少年に感情移入するが、同時に、インドの軍隊の隊員も全くの黒には描かれていない。個人個人は悪い人は少ない。大義の中の個人の正義と倫理観が描かれ、自治区でのインドの暴挙が薄らいでいた。インドの良心が作ったのであり、本作観て、本当の敵は少年ゲリラ兵を生み出す側にあると最終的な感想を持つように、導かれていた。

戦争や紛争の作品をエンタメとして自身が鑑賞していることを十分に認識する必要があるなと思っている。根底には平和を祈っているからだが、映画は真実も真相も描けない。ある側面だけだ。なぜ戦争・紛争の作品を観るか、そこに戦争があり、紛争があることを知るきっかけになるから。映画は入り口でしかない。

映画三昧していると、映画で、世界がわかるような勘違いをしそうだ。レクチャーではそういう文脈では語られていなかったが、レビュー書いていて、ああそうかと思った。

といいつつも、本作は紛争の中での良心を描いた良作だった。ジャケ写がないのが残念。愛らしい少年ハーミドと、極楽と言われているカシミールの景色に出会えた。
genarowlands

genarowlands