小雨

コット、はじまりの夏の小雨のレビュー・感想・評価

コット、はじまりの夏(2022年製作の映画)
3.9
無理をして前向きに生きる必要はないと思っているし、そういう意味でちょっとこの邦題をわたしはあまり好きになれない。原題の「The Quiet Girl」の根も葉もなさにおどろくものの、結局はそういうことだ。
コットはものしずかで、息をひそめるように存在している。世界の一部だけれどだれとも分かち合えない。環境もあるし、性格でもある。こどもは無邪気ばかりじゃない。
だれも彼女がなにを感じ、なにを思って生きているのかを気にとめてこなかったけれど、親戚のおうちにあずけられて、はじめてコットはだれかに気にかけてもらえたのだと思う。なにも主張しなくても心配してくれて、失敗したときには傷つかないようにやさしく声をかけてもらえる。そこではじめて安心ということを知り、呼吸ができる。

「はじまりの夏」はすこし言いすぎだと思うけれど、でもたしかに彼女がはじめて生きていていいのだということを感じることができた最初の夏のおはなしなのだと思う。
だけれどこの作品はそうじて現実的で控えめなので、過剰な希望をえがくことはない。ひと夏のあいだにさしだされた、さしのべられた手や不器用なやさしさを思いだしてすがりついたコットが、その先どうなるのかはわからない。それで充分なのだと思う。
わたしたちは彼女のさいわいを願う。
小雨

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