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コット、はじまりの夏のtwitwilightsのレビュー・感想・評価

コット、はじまりの夏(2022年製作の映画)
4.5
"太陽 酸素 海 風 もう十分だった筈でしょう"
劇場からの帰り道、脳内に流れる日本の著名な女性歌手の歌。ちなみに本作とはまったく無関係な歌です。

原題は、"An Cailin Ciuin" (The Quiet Girl)。
9歳少女コットが叔父家で過ごすひと夏の成長譚、といえば想像に容易いが、特に大きなドラマ展開やツイストが起きぬまま、カメラは静なる彼女の表情を捉え続ける。

喋る大人と黙るこども。"雄弁は銀、沈黙は金"、いや、"口は災いの元"。物語中盤にかけて、そんな諺が頭をもたげる。アイルランドにも同義の諺はあるのだろうか。劇中の英語とアイルランド語の交錯にも興味が向けられた。

エンドロールに続く静寂、そして、館内いたるところから鼻を啜る音。我が涙腺も崩壊した。

アスペクト比が1.37:1というスタンダードサイズであることも手伝ってか、全てのシーンがレコジャケに出来そうな洗練度で、細部に渡り計算し尽くされた画面構成だった。

監督同様、衣装のルイーズ・スタントンという方も、長編デビュー作なのだろうか。親戚宅でコットに与えられたネルシャツが最高に良かった。

そして何より、主人公役のキャサリン・クリンチが素晴らしい。アイルランドのアカデミー賞、IFTA賞の主演女優賞を史上最年少で受賞している。彼女が疾走するあの場面を、私は一生忘れることはないだろう。
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