ヤッスン

コット、はじまりの夏のヤッスンのネタバレレビュー・内容・結末

コット、はじまりの夏(2022年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

ベタな話なのにベタに描かないからよりグッとくる物語だった。
静かな生活そのものが美しく劇的に感じられる見事な作品。

親戚に預けられて明らかに生活は変わったのだが、それを劇的には描かない。
最初から一気に寵愛を受けたり美しい自然に触れたり、みたいなことにはならない。
ある程度現実的な距離感・空気感で接する(いい意味で)ドライな対応だ。

それでも学校にも家庭にも居場所がなかった少女にとって、そこが癒しの場所であることが実感させられる要素の散りばめが上手い。
居場所がなかった頃は享受できなかった「お風呂で洗ってもらう」「飲み物をもらう」その小さなことが丁寧に描写される。
言ってしまえば当たり前のことだが、その積み重ねが徐々に関係を構築していく。

その過程をコットの視点から体感できるバランスも良い。
冒頭数分はコットのすらハッキリとは見えない。草むらの中で…死んでる…?というくらいよく分からない状態からスタートし、その後も後ろ姿だったりで顔が映るまでは少し時間がかかる。
観客からも「どういう子か分からない」ところからスタートしているにもかかわらず、家庭や学校での描写を経て少しずつ重ねる。
ついに親戚宅へ到着した際は、車内からのコット目線というショットまで入る。

親戚宅での生活も綺麗ごとのようには美しくない、だが徐々に変わっていく関係性や距離感に安心感を少しずつ得られるバランスになっている。
「静か」であることに観てる側まで気まずさを抱いていた食卓も、いつの間にかラジオから流れる「もうすぐ夏が終わる」を消して意図的に「静か」にするようになる。
※原題はクワイエットガールだった(?)物静かなことも総じて肯定できる良いシーンだなと

なので最後のダッシュシーンで流れる映像が本当に何気ない静かな日常の積み重ねであることにグッとくる。
超大筋はベタな話だが、直球なベタな物語なら預け先で大きなドラマが起きる。直球ベタ映画ならカットされていそうな「何気ないこと」の連続でこの感覚に至る作劇が見事だったと思えた。
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