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パスト ライブス/再会のmikeのレビュー・感想・評価

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)
4.5
恋愛映画というよりは人生の映画だったし、監督の感覚がとても好き。映画全体に仏教的な思想観念が漂う。「何かを手に入れるために何かを失う」「袖振り合うも多生の縁」。タイトルの『PAST LIVES』は前世を表すと同時に、2人の男性を象徴してもいておもしろい。

主人公のノラ(ナヨン)が魅力的。演じるグレタ・リー曰く「三角関係の真ん中にいても大丈夫な人」。恋愛至上主義ではなく、きちんと野心や仕事や現実に折り合いをつけて、今の自分に納得しているように見えるけれど、夢は母国語で見たりするアイデンティティの複雑さもあって、新時代のヒロイン像だなぁと感じ入りました。
まぶしくてなつかしくて郷愁を誘う「PAST」担当ヘソン、待ち理解する「LIVES」担当アーサー、3人とも地に足ついていて自律できてえらい。おとな。

監督があの地獄のUberタイムを「長すぎるようにも、また短すぎるようにも感じてほしかった」と語っているように、映画全体に矛盾するものをまるっと抱え込んでくれるような度量を感じた。子ども時代への一瞬のカットバックがもたらす、言葉では言い表せない気持ち。あの時のあの子を愛した過去の自分も、振り返らずに今を生きていく自分も、来世に縁を託す自分も、それでも気持ちがあふれてしまう自分も、全部抱えていてもいいし抱えきれなくてもいい。ただ生きていけばいい、という空気感があった。監督曰く、「12才の時きちんとできなかった『さよなら』を24年後にする映画」「大人になるために最善を尽くす3人の物語」。その言葉だけで泣きそうになる。

また、グリズリー・ベアの2人による音楽がすごく良くて。鑑賞後余韻に浸りすぎて、サントラ聴きながらしばらく散歩してしまいました。
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