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パスト ライブス/再会のdoscoytarovのレビュー・感想・評価

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)
5.0
他人の前に立ってこそはっきりする自分の輪郭みたいなものがあると思う。ノラが大人になったヘソンに会ってヘソンが韓国人的だから自分が韓国的じゃないと感じるって言ってたと思うけど、そういうようなこと。そういう誰かとの間に立ち上がる人格のようなことぼんやり思いながら見てた。誰かと離れるということはその誰かの前にいた自分とも離れるということで、会わなくなった誰かのこと思うとき同時にいなくなった自分のことも思う。ノラのことをヘソンが今はほとんど呼ばれない昔の名前で呼ぶ。呼ばれなくなった名前、いなくなった自分、ノラがしきりに言ってた「変な感じ」だよね。ノラにとってはもう置いてきた少女の自分は戻らない。その「変な感じ」が映画にきっちり映ってて凄いなって思った。

ノラの生活が美しい場所でキラキラして溌剌としているのに対して、ヘソンの生活はずっとどんよりしててNYについたら雨まで降ってて、ここほんとにあのノラのいるキラキラしたNYなのかな?ってちょっと笑っちゃった。ヘソンは現状に満足していないのが端々に見て取れて、そういうとき選ばなかった選べなかった人生はことさらに眩しく見える。ノラにとってももちろんヘソンとの関係は美しいものだろうけど、現実に満足していれば美しいまま宝箱に入れてしまえる。思い出を美しい宝物にする為にも今をより良く生きなければいけないということを再確認した。

あととにかく夫のアーサー含めて3人とも大人の正直さと心遣いがあってそれがほんとうに良かった。特にアーサーがいい奴すぎる。ヘソンもちゃんと謝っててえらい笑。泥沼三角関係よりこういうのがいいわ。こういった関係じゃなくても、実際のところ現実ではこういう信頼や心遣いでいろいろ乗り越えてることもあんじゃん。それが過剰に美化されず過不足なく物語のなかに出てきて清々しかった。そういう現実的な良きやりとりが映画に映されて結果的にまとう美しさ、映画の魔法だなと思った。
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