かめの

パスト ライブス/再会のかめののレビュー・感想・評価

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)
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ここ数年観た恋愛映画のなかで一番良かった。

子供時代の記憶を共有している、たったそれだけのことだけれど、故郷を離れて、アメリカ人となったノラには彼の存在こそが故郷であり、過ぎ去った子供時代を愛惜するような気持ちだったのだと思う。

だから、夫のアーサーに対してもヘソンとの再会について流暢に、正直に話せた。恋愛感情を持つには、自分はアメリカ人になりすぎている。国籍や環境なんて関係ない、と思っているアーサーにはその意図が上手く汲み取れず不安になる。しかし、繰り返すようだが、子供時代を共有している、あの頃の美しい記憶だけでもう彼は特別で、これは故郷でそのまま育ったヘソンにもアーサーにも理解出来ない感情なのだろう。

別れ際、未練を感じているヘソンに対し、ノラは観客の望むような、理想的な言葉を選んではくれない。

素晴らしかったのは、冒頭登場した子供時代の分かれ道を、再度描いたシーン。このシーンだけでも、ノラがいかにその時を大切に想っているかが分かる。そして、それはヘソンも同様に。

彼女はただ彼を見つめて、何を言えばいいか分からないけれど、ヘソンを愛していると言うことも出来ない。それは、事実ではないから。

熱情的ではないが、ちゃんとアーサーを愛していて、だからこそどうしようもない感情が溢れてくる。

昔の泣き虫なノラに戻って、帰るところにはアーサーがいて、抱きしめてくれる。慰めてくれる相手はもう、彼じゃない。

映画館を出ても、最後のシーンを何度も反芻して泣きたくなった。
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