ナガエ

ゴッドランド/GODLANDのナガエのレビュー・感想・評価

ゴッドランド/GODLAND(2022年製作の映画)
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さて、ストーリー的には正直なところ、僕には退屈だった。前半は、物語という意味ではほぼ展開しない。後半、旅が終わり教会建設に着手するようになってからは物語が動き始めるが、それにしてもメチャクチャ惹かれるみたいなことではなかった。

ただ、「状況」と「映像」はなかなか凄い映画だった。その辺りの話をしていこうと思う。

舞台は19世紀後半のアイスランド(19世紀後半というのは映画を観ているだけでは分からないので、公式HPからの情報)。この時期アイスランドは、デンマークの統治下にあったそうだ。そしてそんなデンマークの宣教師が、「アイスランドに教会を建てる」という目的のために派遣されることになる。

アイスランドというのは、なかなか過酷な土地であるようだ。火山が噴火し、凄まじい悪臭が漂う。草木があまり生えない不毛な土地で、恐らく寒さも厳しいだろう。時期にもよるようだが、白夜のため日が沈まないらしく、宣教師はアイスランド入りする前に「眠りにつくタイミングが分からず身体が疲れる」みたいな忠告をされていた。

そんな場所に、教会を建てにやってくるという物語なのだ。

さて、物語の冒頭、なかなか興味深い字幕が表記された。

【アイスランドで発見された木箱の中に、デンマーク人牧師が撮った7枚の写真が残されていた。
アイスランド南東部を写した、初めての写真である。
これらの写真にインスパイアされて出来た映画である。】

この説明には、かなりワクワクさせられた。なかなか珍しいきっかけで作られた映画と言っていいだろう。そして、そんな表記からも分かる通り、宣教師であるルーカスは、重い重いカメラ道具一式を担いで旅を続けている。

ルーカスは、ほぼ瀕死のような状態で「教会建設予定地」までたどり着くのだが、回復した後である人物から、「船で来ればもっと早かったのに、どうして遠回りしたんだ?」みたいに聞かれる。そこでルーカスは、「人との出会いと、あと写真を撮りたかったんだ」みたいな返答をしていた。これ以上のやり取りはなかったのだが、そこから読み取れることは、「ルーカスはどうしても写真を撮りたかったこと」、そして「陸路での移動がこれほど過酷だとは想像もしていなかったこと」だろう。

冒頭で「前半はほとんど物語が動かない」と書いたが、それは彼らが教会建設予定地までひたすら旅をしている様を映し出しているからだ。そしてその「映像」は素晴らしかった。まさに「圧倒的」と表現するしかない自然の圧みたいなものが如実に映し出されている。なんというか、「フィクションの映画を観ている」というより、「探検家のドキュメンタリー映画を観ている」みたいな気分になれるような映像だ。

また本作には、「自然環境」という意味の「自然」だけではなく、「生きとし生けるもの」みたいな意味での「自然」も内包されている。作中で、羊の解体シーンがあるのだが、恐らくこれは本当に羊を解体しているんじゃないかと思う。鶏の方はちょっと判断しかねるが、「生と死」みたいなものがはっきりと浮かび上がるような作品になっている。というか、より正確には、「『死』の気配に満ち満ちたアイスランドだからこそ、『生』が一層際立つ」みたいな感じかもしれない。

そういう「映像そのものから発せられる熱量」みたいなものが、特に映画前半は強く、「ストーリーの退屈さ」との闘いではあったが、見応えはあった。

一応、宣教師ルーカスが主人公だと思うのだが、彼の「心情」的なものはほとんどよく分からなかった。恐らく、意図的にそういう風に作っているので、そういう受け取り方で正しいんだと思うが、最初から最後まで「なんともまあ脈絡のない人物で」という印象が強い。もちろん、「凄まじく過酷な環境にいる」ということは理解している。自然環境もそうだが、何よりも彼はアイスランド語が聞き取れないし話せないのだ。恐らくこの「他者とコミュニケーションが取れない」という点が、彼をかなり追い詰めたのではないかと思う。

ただそれにしても、随所随所で「えっ?」という行動を起こすし、その脈絡みたいなものが正直うまく受け取れなかった。この点については、ある人物が物語の最後の方で「人間は矮小な生き物だと思っている」みたいなことを言うのだが、そのことをリアルに体現するのが主人公だったということなのかもしれない。

個人的には、「木箱から見つかった7枚の写真」が見たかったなと思う。エンドロールで映し出されるかと思ったけど、そんなことはなかった。
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