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トンソン荘事件の記録のnetfilmsのレビュー・感想・評価

トンソン荘事件の記録(2020年製作の映画)
3.0
 2019年、寺に放置された車から門外不出の謎の映像素材が見つかった。それは1992年に起きた殺人事件を追った映像記録だった。映像は一度は検察が押収したものの、制作会社が訴訟を起こし取り戻す。この映画は、その映像を編集し完成させたもののようだが、開始10分程度で「マジメか」とツッコミを入れたくなる。白石晃司監督のモキュメンタリーや数多のJホラーの傑作を目にしている者からすれば、あまり恐ろしくない。ホラー映画というのは怖いという雰囲気の醸造が何よりも大事だが、カメラという光学機械により映し出された映像それ自体としては怖さはあまりない。むしろその後のエフェクト処理が大事なのだが、その辺りをかなり甘めに抽出している。1992年、韓国・釜山の旅館「トンソン荘」の一室で殺人事件が発生する。旅館のアルバイトの男が恋人を連れ込み、その部屋で殺害したのだ。92年のビデオだからビットレートは下がっているがこんなものは朝飯前だろう。何と言うか固定カメラの目で行われている映像も単なる痴話げんかにしか見えない。

 男は逮捕されるが、心神耗弱による無罪を主張する。しかし、無期懲役の判決を言い渡され、仮釈放の1年前に自ら命を絶つ。まぁ何と言うか心神耗弱で記憶障害の割にはしっかりカメラをRECする辺りも大変予定調和的なのだがこれが再度、あまり怖いと感じられないレベルに私の心はもう擦れてしまっている。殺害の一部始終が収められたビデオは、その残虐性から当局によって封印されるが、検事の間で話題になったのは、殺害の様子ではなく部屋の鏡に映っていたものだった。それは、男でも恋人でもなく、鏡に映る何かの存在で、ここで初めて怖いとなったのだが時既に遅しだった。何と言うか人物同士の相関関係も皆目見当がつかないようなご一行を悪魔のミッションに挑ませる時点でワクワクしないんだよなぁと。本当に怖い映画というのは怖い映像の羅列ではなく、緩急の「緩」の瞬間が恐らく大事なのだが、監督のユン・ジュンヒョンは矢継ぎ早なカッティングのスピードで恐怖を伝え切れていると思っていやしないか?確かにあの韓国人女性の慎ましやかな人柄が一変する後半の展開は悪くないが、台湾の『呪詛』や、韓国・タイ合作『女神の継承』に比べるとそんなに怖さがない。
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