塔の上のカバンツェル

コヴェナント/約束の救出の塔の上のカバンツェルのレビュー・感想・評価

コヴェナント/約束の救出(2023年製作の映画)
3.6
知人と観た。
"対敵協力者"としての敗者の運命の残酷な現実と、もしこうであったなら…という見捨てた側の願望と気まずさがフラットなエンタメアクションに同居している、個人的にはどういうスタンスなのか測りかねる映画だった。

ガイリッターの映画をそんなに観ていないので、監督の資質がよくわかっていないのかも。

一つの国が分裂したときに、敵に協力したとして見捨てられる側というのはいつの時代も過酷な運命を背負わされるもの。
時代は違えど、南ベトナムが浮かぶ人は多いだろうし、個人としては武装SSの外国人部隊が戦後に母国で粛清されていった運命を思い浮かべた。

本作、最初の企画を1年前に聞いた時は、2021年のカブール陥落直後を描くものばかりと考えてたけど、本作の舞台はISAFが2018年「自由の番人」作戦を展開してた時期の話なんですね。
流石にアメリカ人にとってもまだ直近すぎて消化しきれていないのだろうし、カブール空港での自爆テロや報復の誤爆などはバイデン政権への非難にも繋がるので大統領選控える中でセンシティブですらあったのだろうなと。

いわゆる2021年のタリバンの攻勢によるアフガニスタン・イスラム共和国の電撃的崩壊は、中々に衝撃的で南ベトナムのサイゴン陥落以来のリアルタイムでアメリカぎ関わる国が滅ぶ様というのを固唾を飲んで観ていた記憶。

飛行機にしがみついた人々が振り下ろされて落ちていく様のショッキングな画は今でもトラウマで、「スターリングラード」(1995)や宮崎駿の漫画版「ナウシカ」などで描かれた情景が実際に目の前にしたとき、絶句するしかなく。
アフガン軍特殊作戦群を率いていた将軍が逃れたドイツでUberEatsの配達員をしている姿など、痛しい人々のその後に心を痛めるしかなかった。
東京オリンピックで亡国寸前のアフガニスタンの国旗を掲げた選手団が入場してきた姿も印象に残ってる。

そんな亡国のアフガン人の運命を体現する、本作で最も重要な役所のアフガン人通訳役のダール・サリムの演技は良かったと思う。
劇中、ジレンホールを背負った坂道で夕陽を見つめて泣く姿には心底疲弊し、逃れられない運命を見つめるアフガン人の悲哀そのものだったとも。
ダールサリムさん、ネトフリの「ブラックブック」とか「ある戦争」とか所々で顔の濃い印象的なお仕事されていますね。ゲースロとかで有名なのかな?
このダールサリムと演技力の塊のジレンホールの2人で持っている映画だと思う。

【ディティールについて】

本作と似た構図の映画では、イラク戦争を描いた「グリーンゾーン」なんかもあったなと。
アメリカ兵と現地人が分かり合える素地が少ないため、その架け橋となる通訳という立場が脚本上必要なのはあると思う。

観た当初は、アフガンにしては赤土だったり、酒場の建物がレンガ作りでアフガンって土壁に木の軸通して作るのが一般的では?ロケ地はヨルダンあたりか?とか邪推したけど、実際はスペインのアリカンテでロケしたそうな。

インタビューに答えるてる人がアフガンに似てる!って口を揃えるんだからそうなんでしょう。

廃工場での戦闘シーンだったり、映画全体はそんなにスケールは大きくなく。
HBOとかでやってるSEALDsとかのTVドラマに近い雰囲気かと。

旧アフガン軍のデジタル迷彩(ANCOP)が好きなので、通訳以外にもアフガン兵士の見せ場は一応あったりがポイント。
終盤の戦闘シーンでは現地協力者のアフガン人が頑張ってたり、ガイリッチー的に配慮もしてるんでしょうな。

ゲームのCODでもお世話になった、死の天使ことAC-130スペクターズ。メリケン本当に好きね。
歩兵は航空支援に絶大な愛がある。

因みに基地にいた米兵は第82空挺師団のワッペンをつけた兵が多かった。

対するタリバンも夜襲に長けた部隊ではナイトスコープを装備してたり、本作でも米軍の旧式だけどヘッドギアを身につけてたりと、興味深い点もあり。
M4とマルチカム迷彩に特殊作戦部隊のボディープレートに身を包んだ最近のタリバン兵の姿もSNSで流れてくるけど、時代の流れを感じる…。


余談だけど、映画パンフレットに共同通信カブール支局の安井浩美女史が寄稿していてるんだけど、
カブール陥落を連日ウォッチしていた人には記憶にあると思う、現地邦人を同盟諸国の退避機に相乗りさせてもらうドタバタ劇の最中で結局、自衛隊機で1人だけ退去した当人がこの人だとのこと。
今もカブールに住んでるのは心臓に毛が生えてるタイプの人。


その意味で本邦も現地の協力者を見捨てた側の国の人間なので、この映画を他人事として切り捨ててよいものではないとは思う。


【参考】
公式パンフレット
「アフガン諜報戦争」白水社
「崩壊する巨頭」白水社